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ダリ、ミロ、バスキア、ウォーホール・・・西日本屈指のコレクション1万6000点 福岡市美術館 ㊤現代アート

2020/11/24 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

総館長ナビで「お宝」拝見!福岡市美術館

館内を案内するのは中山喜一朗総館長。
展示されているのはKYNE(キネ)「Untitled」。

 ダリ、ミロ、バスキアから九州が誇る青木繁、坂本繁二郎、さらに日本の古美術まで西日本屈指の約1万6000点のコレクションを誇る福岡市美術館(中央区大濠公園)。市民の憩いの場でもある公園にたたずむ美術館は1979年に開館した。設計は日本近代建築の巨匠、前川國男。開館40年の2019年、前川建築を生かしつつ、より親しまれる美術館にとの狙いを込めてリニューアルした。コレクションからえりすぐった名品が並ぶ美術館を中山喜一朗総館長のナビゲートと担当学芸員の解説で3回に分けて紹介する。

 コレクション全体について、中山総館長は「予算面から寄贈品が中心になる公立美術館に質と量の両方を求めるのは難しいが、当館は両方を兼ね備えている。
 収集家の高い志、学芸員と収集家が培った信頼関係が大きい」と説明する。

中央の聖母をマリアから妻ガラに置き換えたとされる
サルバドル・ダリ「ポルト・リガトの聖母」
© Salvador Dalí Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Tokyo, 2020 G2379

 現代アートにとどまらずコレクションの代表格と言えるのがサルバドル・ダリの「ポルト・リガトの聖母」。
現代美術を担当する山口洋三学芸係長は「ダリが戦後、キリスト教絵画に回帰してきたことを示す作品」と説明する。
 祭壇が分離、浮遊しているのは「興味を持っていた原子物理学の影響」という。
この作品は1995年、5億6000万円で購入し話題になった。
 東京・秋葉原の家電量販店が運営する美術館の所蔵だったが、バブル経済崩壊で差し押さえ。
 99年開館の福岡アジア美術館(福岡市博多区)にアジア近現代美術コレクションを移すことを見越し「新しい顔」を探していた福岡市美術館が入手した。
 同じスペイン出身で、心の発露を制御なく描くシュールレアリスムの作家でも「ダリは遠近法を使ったが、ジョアン・ミロはそれを否定した」と山口係長。
 

抽象度の高いジョアン・ミロ「ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子」
© Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2020 G2379

 ミロの「ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子」は45年制作。
 戦争への怒りや絶望感を示しているといわれる。
 

ニワトリに似た動物が聖家族を乗せたそりを引いて空を飛ぶマルク・シャガール
「空飛ぶアトラージュ」
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2020, Chagall® G2379

 マルク・シャガールの「空飛ぶアトラージュ」も同年制作。
幻想的情景の中に戦争に苦しんだ古里(現ベラルーシ)の人々や亡くなった妻への鎮魂や平和を希求する思いを込めた「戦後の復活をかけた作品」だ。この
時代、戦争と平和が多くの作品のモチーフとなっていることが分かる。

シルクスクリーンでプリントしたアンディ・ウォーホル「エルビス」
© 2020 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc / Licensed by ARS,
New York & JASPAR, Tokyo G2379

 経済発展がめざましかった戦後米国で大量生産・大量消費をテーマとするポップ アートの旗手として活躍したのがアンディ・ウォーホル。
 映画の広告写真を基にした「エルビス」は、エルビス・プレスリーの存在が作られたイメージにすぎないことを示した。
 ウォーホルと共同制作したことでも知られるジャンミシェル・バスキアは街中や地下鉄のグラフィティから頭角を現した。

左下の五重塔なども興味深い ジャンミシェル・バスキア「無題」
© The Estate of Jean-Michel Basquiat / ADAGP,
Paris & JASPAR, Tokyo, 2020 G2379

 山口係長は「基本的に落書きの意識で、気になったものを画面にどんどん入れる」。
 福岡市美術館が所蔵する「無題」には五重塔や仏教建築が入っている。
 日本旅行をした際に興味を持ったらしい。
 ほかにもマーク・ロスコの「無題」など、現代アートを代表する作家の名作が並ぶ展示室は圧巻。
 ジャン・ティンゲリーの「ソフィア・ローレンの悪夢」も興味深い。
 ブリキや電球、モーターなどを組み合わせた立体作品で、ボタンを押すと動きだす。
 「作家としても時代的にも外せない作品ばかり。各種特別展で全国の美術館に貸し出すことも多い」と胸を張る中山総館長。
 それらが一度に鑑賞できる幸せをまずは記事で味わおう。(文・大西直人、作品画像は福岡市美術館提供)

【中山 喜一朗 なかやま・きいちろう】
1954年、大阪市出身。東海大大学院修了。81年、福岡市に学芸員採用。同市美術館、博物館に勤務。2019 年から美術館の館長、20年から現職。専門は日本近世絵画。

【メモ】
休館は月曜と12月28 日~1月4日。月曜が祝日・振り替え休日の場合はその後
の最初の平日。コレクション展の観覧は一般200 円、高大生150 円、中学生以下
無料。12月13日まで特別展「藤田嗣治と彼が愛した布たち」も開催。観覧料は一
般1300円、高大生800円。福岡市美術館=092(714)6051。

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