バンクシーって誰?展
2022/12/17(土) 〜 2023/03/26(日)
10:00 〜 18:00
福岡アジア美術館
2023/03/17 |
福岡アジア美術館(福岡市博多区)で開催中の「バンクシーって誰?展」(西日本新聞社など主催)では、謎多きストリートアーティスト、バンクシーが描いた作品を街並みごと会場に再現している。ロンドン、ロサンゼルス、パレスチナのガザ―。まるでその場所に立っているかのようなリアルなセットはどのように造られたのか。日本テレビ(東京)を訪ね、セットを手がけた日本テレビアートの大竹潤一郎・制作デザインセンター長に苦労とこだわりを聞いた。また、斬新な展示を企画した日本テレビグローバルビジネス局の落合ギャラン健造プロデューサーが狙いと思いを語った。 (文・塩田芳久 写真・古賀亜矢子)
―薄暗いロンドンの路地は重く湿った空気を感じさせる。爆撃されたパレスチナのガザは火薬のにおいまで伝わってくるようだ。バンクシーの作品とともに、リアルな街のセットを再現したのは日本テレビアーの職人集団だ。
「私たちはドラマやバラエティーからニュースまで、日本テレビが制作する番組の美術全般やセット、小道具などを手がけています。そのノウハウを生かし、再現に取り組みました」
―しかしコロナ禍が立ちはだかった。現地ロケに行けず、写真や映像資料だけでの作業を強いられた。
「集められるだけの情報をネットで集め、共有して詳しく分析しました。とはいえバンクシーの絵は消されたり上書きされたりしたものが多く、描いた建物ごとなくなっているケースもあって本当に大変でした」
―それでも、これまで培った技術で問題を一つ一つ解決し「本物」を目指した。
「街路や建物の壁は風雨にさらされ経年劣化します。その状態を再現するため三つの手法を用いました。一つ目は塗料を使った汚れやサビの表現です。二つ目は装飾品。たばこの吸い殻は紙や樹脂で一つ一つ手作りし、壁に貼ったポスターはやすりで削りました。そして樹木や砂、積もったほこりなど自然のものも空間づくりに活用しています」
―中でもバンクシーの絵には細心の注意を払い、再現に努めた。
「決して絵の模写はしていません。バンクシーが描いたものを私たちが見ながら描いたら偽物になります。作品の写真を引き伸ばし、印画紙代わりのセットに焼き付けています」
―まずバンクシーが描く前の建物をセットで再現する。そこに特殊なプリンターで写真を印刷する。
「追求したのは質感です。平板な面にプリントするだけでは、バンクシー作品の再現とは言えません。壁面に触れば、でこぼこしているのが分かります。そこに写真をプリントし、その後も塗装でなじませて、本物の壁に描いたように仕上げています」
―広い壁面の片隅に描かれたネズミ。作品に残るスプレーの飛沫(ひまつ)の一点一点。会場ではバンクシーの世界を細部まで鑑賞できる。
「実際の現場の空気を感じながら見ていただきたい、との思いで試行錯誤しました。照明や音響にもこだわっています。バンクシーを身近に感じられる空間に、足を運んでください」
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本質を追求「アンサーソング」に
日本テレビプロデューサー 落合ギャラン健造氏
なぜバンクシーの作品を、描かれた街並みごと再現したのか。その理由はバンクシーの本質を突き詰め、迫力のある展覧会にしたいと考えたからです。
従来のバンクシー展は絵画の美術展のように作品を額装にし、ガラスケースに入れて展示するものがほとんど。しかしバンクシーはストリートのアーティストです。作品は美術館ではなく、ストリートにあってこそ本当の意味を持ちます。スケール感も、画一的なフレームの中では伝わりません。そしてなぜこの時期に、この場所で、この絵を描いたのか、という本質に迫りたかったのです。そのため、街並みごとの再現にチャレンジしました。
コロナ禍も理由の一つです。バンクシーの作品を見たくても、容易に海外に出かけられない状況になりました。ならば彼のキャリアのハイライトを疑似体験できる空間を提供し、ストリートで描くことの緊張感、意味を伝えたいとの思いも生まれました。
セットを手がけた日本テレビアートは、リアルな街並みと作品を再現してくれました。裏路地で描くストリートアーティストの存在を感じ取ってもらえるのではないでしょうか。
本展は、さまざまなメッセージを投げかけるバンクシーに向けた、私たちの「アンサーソング」にもなっていると思います。 (談)
=(3月16日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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