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【コラム】九州国立博物館20周年特別展 はにわ大集合<下>挂甲の武人 時を超え七変化 時代と文化 映し続ける

2025/02/26 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 九州国立博物館(九博、福岡県太宰府市)で開催中の「はにわ」展。1番の“集客力”を誇るのが5体の「挂甲(けいこう)の武人」だろう。甲冑(かっちゅう)の精細な表現と気高い面ざし、凜(りん)とした立ち姿は、はにわの代表格といえる。
展示会場の外にも人気の挂甲の武人がいる。フォトスポットに置かれた「おーい!はに丸」だ。1980年代に放送されたNHK番組の主人公は、挂甲の武人がモデルとされる。観覧記念にと、懐かしのキャラクターと写真を撮る人たちの姿に思っ た。なぜ、挂甲の武人は時を超え、はにわ代表の地位を占めるのか?

はにわの代表格とされる国宝「埴輪 挂甲の武人」
(東京国立博物館蔵、6世紀、群馬県太田市飯塚町出土)

 「若い世代は『おーい!はに丸』、その上の世代は映画『大魔神』でしょう」
1月末、特別展の開幕に合わせた記者会見で、九博の富田淳館長は挂甲の武人から喚起されるイメージをそう語った。

原口智生さんが手がけた実物大の魔神像。
「完璧な造形美」と原口さんは言う
ⓒKADOKAWA1966

 「大魔神」とは1966年、大映(現KADOKAWA)が制作した特撮映画シリーズ3部作。いずれも権力者に弾圧された人々が、信仰する武神像に祈った時、像は憤怒の形相に変わり弱者を守るために動き出すストーリーだ。“変身”前の武神像は挂甲の武人がモデルだという。

 大映プロデューサーだった奥田久司氏が残した企画書にこうある。「(戦前の)フランス映画『巨人ゴーレム』にヒントを得(中略)ゴーレムに代わる巨像としては、日本古代の埴輪(はにわ)の武神像」を想定した、と。美術監督だった内藤昭氏も、「撮影所長が美術全集の埴輪の写真を見せながら『この埴輪が5メートルになって出てくる映画が撮れるか』と相談してきた」と回想している。欧州で伝承される土人形(ゴーレム)を見て誰もが連想するほど、古代の土製品、挂甲の武人は「強い」はにわの代表と認識されていたのだろう。

 「はにわを細部まで観察して、大魔神を作っていたことが伝わりました」
特殊メークアーティストで、映画特技監督の原口智生さん=福岡市出身=は2004年、武神像と魔神像を高さ4・5メートルの実物大で制作した。角川大映撮影所(現在の角川大映スタジオ、東京都調布市)から依頼を受けた。

特殊メークアーティストで映画特技監督の原口智生さん。
「今の仕事は映画『大魔神』から続いている」と語る

 「ウルトラマン」「ガメラ」シリーズなどで美術・造形を担当した原口さんにとって、大魔神3部作は特別な作品だ。「6歳のころ、映画館で見て衝撃を受けたんです」。特撮映画の「ゴジラ」「ガメラ」はすでに見ていたが、「巨大ヒーローが変身する映画は大魔神が先駆け。1966年に放送開始の『ウルトラマン』とともに、人生に大きな影響を与えました」。

 制作中、原口さんは大魔神に脈々と流れる「何か」が気になったという。「6世紀のはにわ製作者と、60年前の映画の美術担当者は同じものを共有していたのではないか」と。その「何か」を、21世紀の自分も共有していると考えた。
「日本の風土と結びついた何かだと思います」。原口さんは直感を口にする。

原口智生さんが手がけた実物大の武神像。
東京都調布市の角川大映スタジオに〝鎮座〟する
ⓒADOKAWA1966

昨年10~12月、東京国立近代美術館であった特別展「ハニワと土偶の近代」の会場に、漫画や映像化された古代出土品のキャラクターを登場年ごとに並べた「サブカルチャー年表」が掲出された。

 はにわ関係では漫画「キン肉マン」のハニワマン、特撮ドラマ「超電子バイオマン」のハニワカンス、アニメ「それいけ!アンパンマン」のはにわくん―。「大魔神」や「はに丸」と同様、挂甲の武人をイメージしたキャラクターが多数を占めた。

 時代ごとにはにわが見せる「顔」の変遷をたどった同展。戦前・戦中、挂甲の武人は「強さ」があった。皇紀2600年を祝す印刷物の表紙となり、飛行兵と一緒に絵のモチーフとなって「万世一系」「戦意高揚」の象徴に。戦後は「美」をまとった。国際社会の中で日本の伝統を探求する素材となったことが、美術品を通して語られた。

 サブカルチャーのはにわは、その延長線上に置かれた。同美術館の成相(なりあい)肇主任研究員は指摘する。「現代の、はにわのキャラクターは先行の作例を基に模倣され量産されました。挂甲の武人なら『勇ましい主人公』といった作例が持つ意味合いも継承されました」。時代を映した文化の蓄積が、挂甲の武人をはにわの代表格にし続ける理由だろう。

フォトスポットで人気の「はに丸」も挂甲の武人がモデルだ

 同美術館の花井久穂主任研究員が興味深い見立てを披露した。「はにわは時代とともに顔を変えてきました。大魔神が顔を変えるのも、大きな時代の転換があったからかもしれませんね」。会場の「サブカルチャー年表」の筆頭には大魔神があった。
「はにわ」展の挂甲の武人たちから延びる歴史という長い線。それをたどる楽しみ方が、確かにある。(文・写真 塩田芳久)

 九博開館20周年記念の特別展に「大集合」した約120件のはにわたち。多くの人を引きつけてやまないその魅力を、さまざまな角度から見つめた。

▼九州国立博物館開館20周年特別展「はにわ」 5月11日まで。同じ場所で制作されたとみられる「挂甲の武人」の“5兄弟”が勢ぞろいするほか、高さ2.4メートルの巨大な円筒埴輪(はにわ)、馬や鳥、鹿や魚といったバラエティー豊かな動物埴輪などが並ぶ。入場料は一般2千円、高大生1200円、小中生800円。西日本新聞社など主催。問い合わせはハローダイヤル=050(5542)8600。

=(2月22日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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