京都・醍醐寺展 -真言密教の宇宙-
2019/01/29(火) 〜 2019/03/24(日)
09:30 〜 17:00
九州国立博物館
2019/03/16 |
弘法大師空海の手で密教が本格的に日本に紹介された平安時代前期、密教独特の仏像や仏画を初めて見た日本人の衝撃はいかばかりだったか。
奈良の都平城京に花開いた前代の仏教美術を均整の取れた古典とすれば、こちらはバロック。表現は過剰であくが強い。醍醐寺展の会場をのぞけば、時を超えてその一端を追体験できる。
「密教らしさ」を考えるうえで、避けて通れないのはやはり明王像だろう。仏の尊格はもともと如来、菩薩(ぼさつ)、天部の3部類。密教特有の明王はインドの神々を取り込んだという点では天部に近いが、天部が仏教界のガードマンに過ぎないのに対し、明王は如来と同格、あるいは化身とされる。如来が優しく説いても帰依しない衆生を力で調伏するのが役目なので、その表現はおのずからおどろおどろしくなる。
優れた明王像の作例が多い醍醐寺だが、中でも注目したいのが仏像では重要文化財「五大明王像」(10世紀)、仏画では後期から登場した重要文化財「太元帥法(たいげんほう)本尊像」(14世紀)。後者は六幅対の大幅で、中央に掛けられる「太元帥明王像」=写真=は高さ3メートル以上もある。36本の腕と18面の顔を持つ明王が虎皮のパンツをはき、多数の髑髏(どくろ)をぶら下げている様は西洋的基準でいえば、もはや悪魔の類いだろう。暗いお堂で一人で向き合えば、私のような凡夫からは「ごめんなさい。もう悪いことはしません」というせりふ以外、出てきそうにない。
醍醐寺によると、太元帥法とは天皇一代に1回のみ修せられる秘法中の秘法。祈祷(きとう)の目的は鎮護国家や外敵調伏というから、あながち的外れな感想でもなかろう。
同展は、広々とした最終展示室にこの「太元帥法本尊像」や「五大明王像」、醍醐寺本尊の国宝「薬師三尊像」(10世紀)などの名品を集約し、密教的空間の再現を意識している。九州国立博物館に先立つ東京展(サントリー美術館)では広さの都合で「太元帥法本尊像」や、「薬師三尊像」付属の大壇具が割愛されていたことを考えると、会場に恵まれたとも言える。
それにしても不動明王を筆頭に憤怒の明王がなぜこれほど日本に根付いたのか。信仰の深層を考えるうえでも興味深い展覧会だ。
(北里 晋)=3月5日 西日本新聞朝刊に掲載=
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