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福岡市美術館で開催中! 特別展「藤田嗣治と彼が愛した布たち」【レポート】

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秋吉真由美
2020/11/11
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 福岡市美術館(福岡市中央区)で開催中の特別展「藤田嗣治と彼が愛した布たち」。生涯、工芸品を愛したという画家・藤田嗣治(1886-1968)は、画家として有名になる前から“布”に関心を寄せ、絵画にさまざまな染織品を描いてきました。

 同展は、パリで人気を不動のものとした1920年代、パリを飛び出し、中南米や日本で出会った民族衣装や文化に魅了された様子が分かる1930~40年代の作品を中心に、藤田嗣治の絵画と絵画のモチーフとなった布を合わせて展示するという、初の試みを行っています。

 “イストリック・モニュマン(歴史遺産)”を含む染織品や藤田が手がけた衣装など、フランスのメゾン=アトリエ・フジタ所蔵の51点が日本で鑑賞できる貴重な機会です。そのうち47点は日本初公開。藤田が布に寄せたクリエイティブ力は圧巻です。

 

ファッションや布への熱

 1910年代、単身フランスへ留学していた藤田が新婚(入籍はしていない)の妻・とみに宛てた手紙から、藤田のファッションや服、布に対する熱が手に取るように分かります。

《自画像》1929年 ポーラ美術館
《妻とみへの書簡》1913年10月26日 複製展示 公益財団法人平野政吉美術財団
《幾何学文様バティック腰布》19-20世紀 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会

 

布を描き、人気を不動のものに

 18世紀から19世紀にかけて人気を集めたジュイ布(=単色で表した緻密な絵柄の銅板プリント地)。1920年代、藤田はそのジュイ布を絵画にそのまま描き込んだ作品が評判を呼び、人気画家の座へと上り詰めます。

左の作品は、ジュイ布を描いた作品としては現存する初期のものとされています
《二人の女友達》1918年頃 個人蔵、日本
《調教された犬、あるいは、カーニバルの犬》1922年 個人蔵、フランス(複製展示)
上段右《ジュイ布(《恋の技法》あるいは《愉しいレッスン》)ベッドスカート》19世紀後半 個人蔵、日本
下段《ジュイ布(《恋の技法》あるいは《愉しいレッスン》第3版)ベッドスカート》18世紀後半 個人蔵、日本
《五人の裸婦》1923年 東京国立近代美術館
《五人の裸婦》に描かれた布の文様は19世紀前半の様式。このベットカバーの文様も近い時期のもの
《草花文様型染ベッドカバー》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
《タピスリーの裸婦》1923年 京都国立近代美術館
《タピスリーの裸婦》の背景に描かれた布と似た柄
《麦の穂に花文様プリントクッションカバー》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
絵画と布をじっくり見比べるのも楽しい
《自画像》1929年 下関市立美術館

 

世界の布に魅了される

 布の質感にこだわっていたこれまでとは違い、1930年代は衣装の形に注目していったようで、旅で訪れた中南米や日本で出会った民族衣装、各国の個性が反映された柄の衣装などが生き生きと描かれています。

カラフルな衣装をまとった人物たちが次々と描かれています
青年を描いた左の絵画とシャツを並べて展示しています
《魚河岸》1934年 下関市立美術館
《「魚河岸・魚市場」文字文様型染鯉口シャツ》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
《纏頭文様型染鯉口シャツ》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
《「江戸っ子」文字型染半纏》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
自画像の作品に描かれているのが左の布
《自画像》1936年 公益財団法人平野政吉美術財団
《茶道具文様筒描布団鏡表》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
左《花田地亀図型染綿入万祝》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
右《お囃子文様型染万祝》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
左《客人(糸満)》1938年 公益財団法人平野政吉美術財団
多く残されていた紅型はぎれ。使えないような小さなものも捨てずに残されているそうです
陸軍作成記録画として制作。独自の視点で描いた戦争画
《神兵の救出到る》1944年 東京国立近代美術館
《婦人像(リオ)》1932年 広島県立美術館

 

好きがあふれる! 針仕事から生まれた作品たち

 針仕事に夢中だったことが分かる1950年代以降。フタに女の子の絵が描かれた裁縫箱、ストライプ柄の使い勝手がよさそうな道具箱入れ、庭掃除や掃除などのために5番目で最後の妻である君代夫人とおそろいで作ったマスク、千鳥格子のキャップに和服用の布で作ったシャツなど、藤田のファッションセンスが光る興味深い作品ばかり。

《藤田嗣治 裁縫箱》1954年 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
右《藤田嗣治 道具箱入れ》1952年頃 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
左《藤田嗣治 道具入れ》1952年頃 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
《藤田嗣治 千鳥格子ワークキャップ》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
《藤田嗣治 千鳥格子ズボン》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
《藤田嗣治 寿時文様型染シャツ》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
《藤田嗣治 片身替袢纏》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
左《藤田嗣治 丸型マスク》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
右《藤田嗣治 角型マスク》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会
スペイン各地で行われる聖週間、練り歩く神輿にのせるマリア像。マリア像に沖縄の紅型のケープをまとわせた藤田嗣治の世界観が感じられます
《マリア像》不詳 メゾン=アトリエ・フジタ、エソンヌ県議会

 絵画の中に描かれた“布”に注目して、新たな角度から画家・藤田嗣治を探る同展。絵画の中で舞う布や旅先で出会った服、自分と大切な人のための針仕事―。日常をいろんな“布”で彩る、藤田が夢中に、そして大切に生きた時間がそのまま見えるような空間でした。

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