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【連載】山出淳也 アート、まちに出る 38

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山出淳也
2021/04/15
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アート版トキワ荘

 2008年、翌年の別府市での芸術祭開催を控え、僕たちは会場として使用できる場所を探していた。

 そんなある日、使われていない20室ほどのアパートを見つけた。戦後すぐに建てられたそこに風呂はなく、トイレや流しは共同で使う。「ドラマに出てくるセットみたいですね」と若いスタッフは目を丸くする。

 大家のレイコさんに貸してほしいと相談に伺った。「壊して駐車場にするつもりなんです」と断られた。諦めきれない僕は数日たってまた会いに行った。「大変だったことばかり思い出すのよ」と、これまでを語りうつむかれた。高齢のレイコさんは御主人の介護もあり、このアパートの将来なんて考える余裕はなさそうだった。

 「だったらなおさら、最後にたくさんのすてきな思い出を残したい。レイコさんのためにも、このアパートのためにも」。そう告げた。しかし彼女は首を横に振り、僕は家を出た。

 数日後電話があり、僕は耳を疑った。使って良いと言うのだ。すぐに、若いアーティストがこのアパートに一定期間滞在し、展示まで行う企画を考えた。芸術祭が始まる4月に僕たちは30人程度のアーティストを招いたが、口コミで広がり続け、最終的に132組が作品を残していった。レイコさんは会期が進むにつれどんどん元気になった。ご主人を車椅子に乗せ、何度も来てくれた。

 仲間と将来の夢を語りあった美大生のほとんどは、アーティストとして一生を終えることは難しい。それでも夢を語り合うことで生きていける。久しぶりにそんな時間を持った彼らにとって、ここ「清島アパート」は特別な場所になった。

 芸術祭閉幕後、「彼らが帰ってくるために、このアパートを借り続けてほしい」。レイコさんはそう僕に伝えた。それから6年後、彼女は旅立った。最後まで若いアーティストに慕われたレイコさん。彼女の想(おも)いを胸に、僕たちは今でもこのアパートを管理している。いつの日かここがアート版トキワ荘と呼ばれる日を夢見て。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(1月5日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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