福岡ミュージアムウィーク2024
つきなみ講座スペシャル 美術館と社会課題
2024/05/18(土)
福岡市美術館1階 ミュージアムホール
2020/08/24 |
広島市に生まれた美術家の殿敷侃(とのしきただし)(1942~92)は、父母を原爆で亡くした。自身も20歳のとき、2次被爆が原因と思われる肝臓病を患う。療養先の病院で絵画教室に参加したのが美術との出合いだったから、その表現に被爆体験の影響が濃いのは必然だろう。
80~81年頃に制作したシルクスクリーンの版画シリーズ「霊地」は、小さな三日月形のパターンを無数に反復する。三日月は父の爪の形であるという。爪で埋め尽くされた画面は、原爆に命を奪われた人々が、現世に必死に爪を立てた痕跡のように見える。
「霊地」で確立された爪のパターンは、次の表現として広告ポスターや新聞紙の上に刷られるようになる。メディアは消費社会や膨大な情報の象徴。その上に爪を重ねることは、バブル景気前夜の日本で、過去が簡単に忘れ去られていくことを嘆く行為だった。
作品は現代への懐疑的な目線から、視覚的な面白さも追求する。三日月形の無数の窓越しに見えるのは女性の顔、車の赤いボディーや観光地の砂浜。それぞれが隠されているようで逆に印象を強める効果がある。実は緻密に計算されていたに違いない爪の形の執拗(しつよう)なまでの反復からも、確かな力量がうかがえる。
殿敷は山口県長門市で絵画教室を開いて美術活動に専念し、展覧会への参加や個展を重ねながら作風を変貌させていく。福岡市美術館の「第2回アジア美術展」(85年)には、廃材を焼き固めたインスタレーションを出品。同時期の他の作品では、廃タイヤやプラスチックごみも素材とした。
共通するのは、忘れられ、不要とされたものへのまなざしだ。50歳で肝臓がんのため死去した殿敷。30年間のキャリアで絶えず新しい表現を求めたのは、自身の命が長くはないと悟っていたからだろうか。 (諏訪部真)
=8月21日付西日本新聞朝刊に掲載=
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