江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2020/08/28 |
言えない、言いたくないけど、言わなくてはいけないこと。それをいかにして言うか。父に抱く複雑な感情と向き合うために表現を続けてきた宮本華子(33)が、矛盾に満ちた自身の内部をてらいなく提示する境地にようやく至った。
2019年にドイツで発表したインスタレーション「私は、あなたにだけ言えない。」は、宮本がインターネット通話アプリで母親に何か語りかける映像が、モニター画面に流れる。鑑賞者が作者に近づくことを拒むかのように、「オレのため」との文字が刺繍(ししゅう)されたベールが画面手前に垂らされ、肝心の映像ははっきりとは見えない。ドイツ語による涙声の訴えも、ドイツ語を解さねば全く理解できない。
宮本は本作で、10代の頃に父との間に生じたある問題について打ち明ける。内容を聞き取れるドイツ人なら、ふさぎ込んで展示室を出て行くほどの重い秘密。鑑賞者の多くは宮本が何を話しているか気になるが、作中にそれを探る材料は提示されない。問題について語ることは自身を救うかもしれないが、同時に、知られたくない内容なのだ。
熊本県荒尾市出身でドイツ在住の宮本は、女子美大卒業後から一貫して家族、特に父との関係性を題材にしてきた。今年は若手美術家の登竜門「VOCA展2020」で佳作に入った。
一方的に投げつけられるドイツ語の雨は、深読みさせる一方で、全てを知ることを恐れさせる。鑑賞者は何かを察することしかできない。だが、そんなこちらの心の動きは宮本には二の次だった。言いづらいが言わねばならぬことを口にすることで、自身の生きづらさの解消を切実に芸術へと求めたのだろう。それは、結果的に話すことや聞くこと以外のコミュニケーションの回路を鑑賞者にも強く意識させ、作家の一つの到達点となった。 (諏訪部真)
=8月28日付西日本新聞朝刊に掲載=
U-39KUMAMOTO展覧会
「宮本華子 Was ich dir immer schon sagen wollte, aber nur dir nicht sagen kann. 私は、あなたにだけ言えない。」
会期:2020年8月1日(土)~8月30日(日)
会場:つなぎ美術館 (熊本県葦北郡津奈木町岩城494)
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
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