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【学芸員コラム】熊本・大分地震から1年|熊本市現代美術館

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アルトネ編集部
2017/04/17
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2016年4月14日、そして4月16日未明、その後の度重なる余震――。熊本・大分を中心に九州で発生した地震から1年が経つ。災害時に生み出されたアートやデザインを紹介する展覧会「3.11→4.14-16 アート・建築・デザインでつながる東北⇔熊本」について、熊本市現代美術館主任学芸員の坂本顕子氏に寄稿いただいた。(編集部)

熊本・大分地震から1年。熊本市現代美術館では、そのメモリアル企画として「3.11→4.14-16 アート・建築・デザインでつながる東北⇔熊本」展を開催中だ。本展は、熊本地震に際して、アートや建築、デザイン分野で行われた5つの取り組みを紹介するものだが、それらにはいずれも、東北を中心とする東日本大震災の経験が色濃く反映されている。

会場では、慶応大学SFCの坂茂研究室、熊本大学の田中智之研究室らが中心になって運用した「避難所用・紙の間仕切りシステム」の実物や、建築家の伊東豊雄がコミッショナーを務めるくまもとアートポリスの「みんなの家」の模型や資料、アーティストの日比野克彦が発案した、仮設住宅を彩るハートのマグネットを作ってお互いに交換する「ハートマーク・ビューイング」、アーティストの村上タカシが、仙台の復興住宅で2012年から継続してきた「おしるこカフェ」や、未来美術家・遠藤一郎による「未来龍熊本大空凧」など、大きく5つのプロジェクトを紹介している。

日比野克彦「ハートマーク・ビューイング」

 

日比野克彦は、東日本大震災後、J-WAVEの復興支援番組「Hitachi Systems HEART TO HEART」のナビゲーターを務めたが、その取材で出会った岩手県釜石市の仮設住宅に住む女子高校生、寺崎幸季さんが番組に寄せてきたメールに、ショックを受けたという。小学6年から仮設住宅に住む彼女にとって、そこは紛れもなく「家」であるにも関わらず、他の人はみな「仮設」と呼び、「家」とは呼ばない。「仮設」を自分の「家」と思ってもらえるようにアートできないか、というのが彼女の願いであった。

そこで、日比野は、仮設住宅の壁面に貼ることのできるように、ハートマークをマグネット化し、カッティングシートで飾ることで、誰でも気軽に参加し、様々な被災地への思いを交換できるように、「ハートマーク・ビューイング」を進化させた。今回、熊本の会場では、東日本の皆さんが、熊本へ向けて作って下さった、ハートマークのマグネット約2000枚が展示されている。一つ一つをよく見て行くと、くまモンや九州新幹線、ファイトの文字など、遠く離れた土地の見ず知らずの誰かが寄せてくれた温かい気持ちががじわっと伝わってくる。来場者は誰でも、会場内でハートマークを作り、交換することができる。

熊本の復興は、まだまだ道半ばである。この機会にぜひ美術館へお越しいただき、新たに前に進もうとする街の姿を見ていただければ幸いである。

 

坂本 顕子(さかもと・あきこ)

熊本市現代美術館主任学芸員。1976年熊本市生まれ。千葉大学大学院教育学研究科修了。同館設立準備室を経て現職。教育普及や、現代美術系の企画展を多数行う。 九州をベースに、美術や美術館が地域に開かれていくための研究・実践を続けてい る。

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