入江明日香展
時空の旅人
2022/09/03(土) 〜 2022/10/09(日)
09:30 〜 18:00
福岡アジア美術館
2022/09/09 |
福岡アジア美術館で10月9日(日)まで開催の『入江明日香展 時空の旅人』。入江明日香さんは、西洋の銅版画技法を主軸にしながら、日本画や浮世絵他の技法も使いこなします。豊かな想像力から創り出す画面構成で、異次元にいる人物や動物、お伽噺のなかの住人たちなど確かな描写力で魅せてくれます。
今回は、学生時代の作品から最新作まで、まさに彼女の時空を旅するように、その時々に感じていたこと熱中していた技法、テーマなどが浮き彫りになった展覧会です。
入江さん自らが作品について語るギャラリートークのイベントに参加し、作品との濃密な時間を過ごすことができました。
入江さんの作品は、これまで抱いていた銅版画のイメージとは全く異なり、カラフルで精緻な描写がとても印象的です。個人的には、印象派よりも写実派、バロック美術だし、伊藤若冲に目を奪われる上に可愛いものが大好きなので、彼女のようなカラフルで精緻な描写はついつい作品を覗き込んで観てしまうほど心を奪われました。
美大に入る以前は主に油絵を描いていた入江さんは、大学時代は銅版画を専攻(当初はほぼモノクロで、カラーの銅版画を制作できることを知らなかった)、学生時代はさまざまな技法を組み合わせながら、作品作りを模索していたと言います。
抽象的な銅版画に子どもの頃からやっていた“書”を組み込み、銅版画、コラージュとさまざまな技法を駆使し制作した≪Sleeping rain≫(2004年、丸沼芸術の森)では「日本版画協会第72回版画展」奨励賞を受賞します。そこから少しずつ作品に自分の“色”が出始めました。人物を取り入れて作品作りを始めたのもこの頃。
そして文化庁新進芸術家海外研修制度にてパリで銅版画の勉強をする機会を得ます。
パリではこれまでの経験にかかわりなく、一から銅版画について技法を身に付けていったと言います。特にパリの職人が調合した美しい銅版画のカラーインクとの出逢いは、自身の色彩感覚をより研ぎ澄ませ、確固たる入江明日香の作品像を創り上げてくれたそうです。
今の作品に繋がる第一歩が、パリ留学にはあるのかもしれません。
このパリでの経験が、入江明日香の創作意欲をさらに高めていき、帰国後も花鳥や日本の風景、四天王、桜などを意識的にテーマにおき、作品作りをしていきます。
入江さんの作品では類まれな画面構成だけでなく、作品の中に散りばめられた付喪神のような小さなあやかしたちを探してみるのも楽しみのひとつです。
歌川広重の≪東海道五拾三次≫をオマージュした≪平成 東海道五拾三次之内:品川(入江明日香オリジナル)≫(2015年 作家蔵)は、広重が描いた当時の場所を現代の風景と重ね合わせて描いた作品。「これを創り上げることをライフワークにしたい」と語るほど、モチーフと作風がマッチしています。
本当は、最初から最後まで入江明日香さんが語っていたことをご紹介したいのですが、やはりこれは観て頂かないと、作品の豊かさとダイナミックさは拙い文章では伝えきれません。
最後にとても感銘した作品をご紹介します。入江さんの作品は、どれも精緻で美しい描写なので、会場に入った瞬間にその世界観に吸い込まれていきます。ですが、直近で制作された作品のひとつという≪東京≫(2021年)、≪Paris≫(2021年 ともに丸沼芸術の森)という作品を目にした時に、ゾワッと鳥肌が立ちました。何かを観て“鳥肌が立つ”という経験は、どんな人生においてもそれほど頻繁にあることではありません。これまで観てきた作品とは全く異なる、透明感と奥行き、立体感、既視感、そして作品に対する想いのようなものが一気に押し寄せてきて、止まったまま少しの間動くことを忘れるほどでした(大げさではなく、本当ですよ!)。
この作品について入江さんは「コロナ禍で思うように行動できなかったこともあり、大好きなパリの街と生まれ育った東京の街を、思い返すようにして創作した」と教えくれました。
今の時代、どこに居ても欲しいものは手に入ると思っていました。ですが、体感する感動は、やはり自分から出向いて行かないと得ることはできないようです。コロナ禍があったことで、入江さんはこの作品を創られました。だからこそ、筆者は鳥肌が立つような感動を得ることができました。
未だ見ぬ、自分の感動を探し出すために、『入江明日香 時空の旅人』をおすすめします! (Tsutsui AYA)
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