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文学を描く 美術を読む 芥川と漱石、菅虎雄 <4> 本音にじむ小説家の絵 久留米市美術館【コラム】

2023/12/23 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 小説家も時には絵筆を執った。身を削って研ぎ澄ませる文章とは一線を画し、絵では自らの弱さをも見つめる、ふとした本音がにじみ出るかのようだ。

 夏目漱石の水彩画「書架図」は、ロンドンから帰国後の1903年に描かれた。絵は弟子の小宮豊隆に渡り、今はみやこ町歴史民俗博物館が所蔵する。木村達美学芸員は「当時は妻子と別居していた時期。漱石にとって、絵を描くのは気分を落ち着かせる意味もあったのでは」と語る。

夏目漱石「書架図」(みやこ町歴史民俗博物館蔵) 

 「You and I/and nobody by.」と書かれた英文。蔵書と向き合い、ひとり孤独をかみしめたのだろうか。

 漱石は後に絵を本格的に習い始め、文人画を多く描くようになった。「文人画は実際の遠近云々(うんぬん)ではなく、描く者の気持ちの向きが重要。漱石に合っていた」と久留米市美術館の森山秀子副館長。執筆の高揚を鎮めるように、絵で“そぞろ歩く”姿が浮かんでくる。

 一方、自死の4カ月前に短編「河童(かっぱ)」を発表し、命日が「河童忌」と称される芥川龍之介は、河童の絵も多く描いた。親友だった小穴隆一への書簡では、わび状として、平身低頭する河童を描いている。どこか哀愁漂う河童は、芥川の自画像のようにも映る。

芥川龍之介「娑婆を逃れる河童」(日本近代文学館蔵 1月3日より展示)

 死の数日前、芥川のおいの部屋に投げ込まれていたという「娑婆(しゃば)を逃れる河童」は、不格好なさまで、四肢を投げ出して走っている。ユーモラスというより、悲愴(ひそう)感すら漂っているようだ。

=(12月19日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 2024年1月28日(日)まで、久留米市野中町の市美術館=0942(39)1131。西日本新聞社など主催。一般1200円、65歳以上900円、大学生600円。高校生以下無料。

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