九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  コラム ›  【コラム】ガレージTV、森秀信、船木美佳 「大陸向洋の夢」展 炭坑と玄洋社の記憶 人それぞれのイメージ喚起

【コラム】ガレージTV、森秀信、船木美佳 「大陸向洋の夢」展 炭坑と玄洋社の記憶 人それぞれのイメージ喚起

2025/05/26 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 出展者の森秀信によると、スロベニアの哲学者スラヴォイ・ジジェクは「人は映像を見るとき、自分のさまざまな体験や記憶を基にイメージを組み立てている」と述べたという。自分がこれまで何を見て、何を学んできたか。そんな人生の“ログ”が問われる3人展である。

 福岡県飯塚市に住む森の「セルフポートレイト―三菱飯塚炭坑」は、100年ほど前に作られ、同市に残る巻き上げ機台座を背にした作家を撮影した。かつては台座の上に巻き上げ機を据え、人や物を坑内に行き来させるトロッコを引っ張っていたという。

船木美佳「玄洋社双六」(右)と森秀信「セルフポートレイト-三菱飯塚炭坑」

 写真には赤煉瓦でできた巨大な構造物しか映っていない。だが写真のキャプションには、炭坑で強制労働させられた中国人の歴史を刻む碑が近くに建つと書いてある。それを読むと、多くの人は失われた巻き上げ機やトロッコに乗った炭坑労働者や石炭の山をイメージするだろう。こちらを向いた写真の中の森は、そんなイメージに至る過程を見つめているようだ。

 森と宮川敬一=北九州市=のユニット「ガレージTV」の映像作品「松原浴場」は、同県田川市にあった銭湯の往時の様子を撮影した。浴場を静かに映した場面が中心だが、かつて炭鉱の浴場として栄えたことを知ると、たくさんのイメージが立ち上がってくる。

 福岡市出身の船木美佳は、明治期に福岡から生まれた政治結社「玄洋社」をテーマにした。

 油彩画「玄洋社双六」は、日本の近代史と玄洋社の歩みをカメの甲羅に似た形の双六で表現した。こまが進めば福岡の変、日清・日露戦争、関東大震災という歴史的出来事、頭山満と板垣退助や中江兆民との会合、来島恒喜による大隈重信襲撃など玄洋社を巡る動きに出くわす。

 船木の身内には玄洋社関係者がいた。親族から「玄洋社には立派な先人がいた」と聞かされ、英雄視していた。長じて、世の中の玄洋社のイメージが「アジア主義の元、大陸侵攻を叫んだ右翼集団」として定着していることを知り、強いギャップを感じたという。

 そんな体験を持つ者が制作した作品を、体験のない者が見た時にもギャップは生じる。その差異を船木は「歴史の中に開いた『穴』だ」と表現する。「日本で起こった事象の中には、検証せずにやりすごして消したものもある。穴の存在をイメージしてほしい」と話した。

 三者三様の作品を通覧して、展のタイトル「大陸向洋の夢」に思いが至る。三者にとって大陸も向洋も夢も、淡い背景でしかない。だけど淡いがゆえ、自分自身の体験や記憶を差し挟む余地がある。歴史を見つめ直すことで、新たなイメージが喚起されそうだ。 (塩田芳久)

▼大陸向洋の夢 30日まで、北九州市小倉北区鍛冶町のギャラリーソープ。木、金曜午後6時半~11時、土曜同3~11時、日曜同3~8時。1ドリンクオーダー制。093(551)5522。

=(5月19日付西日本新聞朝刊に掲載)=

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 5435848923

特別展「若冲、琳派、京の美術ーきらめきの細見コレクションー

2026/04/21(火) 〜 2026/06/14(日)
九州国立博物館

Thumb mini 774a132be2

特別展 大恐竜展 ~「フクイ」から探る獣脚類の進化~

2026/04/24(金) 〜 2026/06/28(日)
福岡市博物館

Thumb mini 7ef2333063

小磯良平展ー幻の名作《日本髪の娘》

2026/04/18(土) 〜 2026/06/21(日)
福岡市美術館

Thumb mini c38977284b
終了しました

コレクション展Ⅲ 特集 没後5年 菊畑茂久馬

2026/01/31(土) 〜 2026/05/06(水)
北九州市立美術館 本館

Thumb mini b1f7d1260b
終了しました

特別企画展
なんだこれは!岡本太郎展

2026/03/20(金) 〜 2026/05/06(水)
鹿児島市立美術館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini 559883e9f9
コラム

久留米市美術館 開館10周年記念展「美の新地平 石橋財団アーティゾン美術館のいま」【学芸員コラム】(その2)

Thumb mini da7b8d0855
コラム

久留米市美術館 開館10周年記念展「美の新地平 石橋財団アーティゾン美術館のいま」【学芸員コラム】(その1)

Thumb mini 3fea32bffe
コラム

【コラム】小磯良平の美《福岡市美術館特別展より》<上>天才画家 若き日の姿

Thumb mini 44a277abe2
コラム

【コラム】アーティゾン美術館から名品80点 久留米市美術館10周年展 生き続けるコレクションの「いま」

Thumb mini e91a2da7dd
コラム

【コラム】福岡のくらしと自然 今昔 特別展「魔法の歴史スコープ」<下>太閤町割の名残 今も

特集記事をもっと見る