
『大陸向洋の夢』
2025/05/10(土) 〜 2025/05/30(金)
GALLERY SOAP
2025/05/26 |
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出展者の森秀信によると、スロベニアの哲学者スラヴォイ・ジジェクは「人は映像を見るとき、自分のさまざまな体験や記憶を基にイメージを組み立てている」と述べたという。自分がこれまで何を見て、何を学んできたか。そんな人生の“ログ”が問われる3人展である。
福岡県飯塚市に住む森の「セルフポートレイト―三菱飯塚炭坑」は、100年ほど前に作られ、同市に残る巻き上げ機台座を背にした作家を撮影した。かつては台座の上に巻き上げ機を据え、人や物を坑内に行き来させるトロッコを引っ張っていたという。
写真には赤煉瓦でできた巨大な構造物しか映っていない。だが写真のキャプションには、炭坑で強制労働させられた中国人の歴史を刻む碑が近くに建つと書いてある。それを読むと、多くの人は失われた巻き上げ機やトロッコに乗った炭坑労働者や石炭の山をイメージするだろう。こちらを向いた写真の中の森は、そんなイメージに至る過程を見つめているようだ。
森と宮川敬一=北九州市=のユニット「ガレージTV」の映像作品「松原浴場」は、同県田川市にあった銭湯の往時の様子を撮影した。浴場を静かに映した場面が中心だが、かつて炭鉱の浴場として栄えたことを知ると、たくさんのイメージが立ち上がってくる。
福岡市出身の船木美佳は、明治期に福岡から生まれた政治結社「玄洋社」をテーマにした。
油彩画「玄洋社双六」は、日本の近代史と玄洋社の歩みをカメの甲羅に似た形の双六で表現した。こまが進めば福岡の変、日清・日露戦争、関東大震災という歴史的出来事、頭山満と板垣退助や中江兆民との会合、来島恒喜による大隈重信襲撃など玄洋社を巡る動きに出くわす。
船木の身内には玄洋社関係者がいた。親族から「玄洋社には立派な先人がいた」と聞かされ、英雄視していた。長じて、世の中の玄洋社のイメージが「アジア主義の元、大陸侵攻を叫んだ右翼集団」として定着していることを知り、強いギャップを感じたという。
そんな体験を持つ者が制作した作品を、体験のない者が見た時にもギャップは生じる。その差異を船木は「歴史の中に開いた『穴』だ」と表現する。「日本で起こった事象の中には、検証せずにやりすごして消したものもある。穴の存在をイメージしてほしい」と話した。
三者三様の作品を通覧して、展のタイトル「大陸向洋の夢」に思いが至る。三者にとって大陸も向洋も夢も、淡い背景でしかない。だけど淡いがゆえ、自分自身の体験や記憶を差し挟む余地がある。歴史を見つめ直すことで、新たなイメージが喚起されそうだ。 (塩田芳久)
▼大陸向洋の夢 30日まで、北九州市小倉北区鍛冶町のギャラリーソープ。木、金曜午後6時半~11時、土曜同3~11時、日曜同3~8時。1ドリンクオーダー制。093(551)5522。
=(5月19日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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