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【コラム】髙島野十郎は「孤高」の画家か 没後50年、全国巡回で回顧展 追求した写実 つながりに着目

2025/12/03 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 「孤高の画家」として人気を誇る福岡県久留米市出身の髙島野十郎(たかしまやじゅうろう)(1890~1975)。しかし彼は本当に「孤高」だったのか―。没後50年の今年、従来の野十郎像に一石を投じる大規模回顧展が全国を巡回している。企画したのは、生前は無名だった野十郎を発掘した福岡県立美術館(福岡市)。見過ごされがちだった同時代の画家や周囲の人々との「つながり」に着目し、野十郎の見方を広げようとしている。
(川口安子)

 「生涯独身」「独学を貫く」「東京帝大を首席で卒業」「人間ぎらい」…。野十郎を語る際、頻繁に使われてきた語句はいずれも「孤高」のムードに満ちている。1986年に初めて画業を知らしめた同館の回顧展も、主題は「写実にかけた孤独の画境」。以降、野十郎はこのキーワードとともに注目され、根強いファンを獲得していった。

 高山百合学芸員は「80年代以降の美術批評を調べてみると、ゴッホや田中一村をはじめ『孤高の画家』と呼ばれた人は驚くほど多い。一種の“孤高ブーム”と言える状況で、野十郎はその生き方を含めて、時代が求める憧れを体現する存在になったのではないか」と分析する。同時に高山さんが感じているのが、この10年間でのファン層の広がりだ。作品の印刷物がより高画質になったほか、コロナ禍によって美術館がオンライン上で作品を見せる機会が増えた。「実物を見なくても野十郎に出合う方が増えたおかげで若い世代まで浸透し、受容のされ方も変わってきた」と語る。

「絡子をかけたる自画像」(1920年、福岡県立美術館蔵)

 過去最大規模となる約170点を集めた没後50年展は、全6章のうち序章以外を「時代とともに」など「○○とともに」というつながりを強調した副題で統一したのが特徴。野十郎の兄と親交の深かった青木繁や坂本繁二郎ら同時代の画家の作品を並べることで、作風の相対化を試みた。

 野十郎が10代で描いた「壺(つぼ)とりんご」は、ゴッホや岸田劉生(りゅうせい)の影響を色濃く感じさせる。劉生はリンゴなどの対象を細密に描くことによって、存在そのものの神秘性を探究した。野十郎は画壇に属さなかったとはいえ、写実を深く追求する哲学的姿勢を劉生から吸収したと言えよう。

「壺とりんご」(1923年、福岡県立美術館蔵)

 野十郎の代名詞でもある「蝋燭(ろうそく)」シリーズは、いずれも個展では発表されず親交を持った人々へ手渡された贈り物だ。「代を超えても多くの方々が大切に持ち続けていることからも、野十郎の交友関係の豊かさがうかがえる」(高山さん)。野十郎は自画像や依頼された肖像以外はほとんど人物を描かなかった。炎の大きさやロウの形は一つ一つ異なり、それぞれの人物の肖像のようにも思える。

「蝋燭」(大正時代、福岡県立美術館蔵)

 75歳の年の油彩「菜の花」は、写実的でありながら、この世の物でないような違和感を与える。全ての花がこちらを向き、茎や葉、土など隅々まで焦点が当たって精緻に描き込まれているからだろう。<花一つを、砂一粒を人間と同物に見る事、神と見る事>(遺稿ノート)。生涯、仏教に深い関心を寄せた野十郎は、絵筆を握ることで万物に等しく慈悲を注いだ。

「菜の花」(1965年、ブルーミング中西株式会社蔵)

 野十郎の現実を超えた写実は、私たちに「理想の姿」を夢見させる力を持つ。「孤高」を求めたこれまでのブームが均質化された社会の果てに逸脱を欲した時代の反映だったとすれば、新たに「つながり」を見いだそうとする本展もまた、多様化に疲れた現代の表出なのかもしれない。

 「没後50年 髙島野十郎展」は14日まで福岡県立美術館。その後は愛知、大阪、東京、栃木を来年にかけて巡回。

=(12月3日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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