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【コラム】九州の「芸術祭」急増 交流促進へ面的な情報を アートベース88代表 宮本 初音さん

2025/12/10 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 2025年の芸術の秋、九州のアートファンはうれしい悲鳴を上げることになった。「芸術祭」が急増したのだ。

 福岡県では、福岡市が「Fukuoka Art Next」という芸術家支援事業を行っており、代表的なイベントが9月に開かれた。アートフェアアジア福岡をはじめ、福岡アジア美術館の滞在作家による成果展、天神の商業ビルを使った大型展示などで話題になった。この時期を定めて全国からアート関係者が福岡に集まるため、若手作家の企画展も増えている。県内では他に糸島国際芸術祭や久留米まちなか美術館、遠賀川神話の芸術祭があり、みやま市では県主催の旧上庄小レジデンスが行われている。

 佐賀県では佐賀市で佐賀大や美術館、近隣のギャラリー、酒蔵跡スタジオなどを交えた現代アートのコミュニティーが広がっている。来年新たなアーティストフェアも予定されている。

 長崎県では、9月に長崎市で長崎居留地まつりが開かれ作家の滞在制作が注目された。10月に対馬市で開かれた半井桃水館(なからいとうすいかん)芸術祭では、日韓の若手作家が滞在制作の成果を古民家などで披露した。

 熊本県では10月、映画監督の遠山昇司さんが小国町で「小さな国」というリサーチ中心のプロジェクトを始動した。研究者や作家が住民や風土から見いだしたものを「国際小国学」として広げていく構想がある。5年目を迎えた津奈木町のアートプロジェクト「海渡り」は、作家の五十嵐靖晃さんがつなぎ美術館と連携して制作。地域の新しい祭りのように展開している。

 大分県では別府市のNPO法人BEPPU PROJECTが現代アートに関する多彩な企画を手がけている。9月のアートフェア別府は作家と対話しながら作品を購入できることが特徴で、滞在によって作家間のネットワークも育まれている。このほかトイレを舞台にした大分市の「たけにしトイレンナーレ」、日田市の日田藝術(げいじゅつ)祭、国東市・豊後高田市の国東半島芸術文化祭、杵築市のカタスミアトアト芸術祭など、県全域への広がりにも注目したい。

 宮崎県椎葉村では初の芸術祭「山は招く芸術祭」が立ち上がり、作家が住民らの希望を取り入れながら滞在制作を行った。伝統文化と現代アートが出合い、流木のステージが川沿いに登場するなど、住民と作家の共同制作が活気をもたらしている。日南市では九州初の重要伝統的建造物群保存地区・飫肥(おび)地区の芸術祭が8回目を迎えた。

流木のステージが川沿いに組まれた宮崎県椎葉村の「山は招く芸術祭」
=11月1日(アーツカウンシルみやざき提供)

 鹿児島県でも阿久根うみまち芸術祭や、夜間のみオープンするユニークな種子島宇宙芸術祭が催された。

 芸術祭を巡りながら感じたのは、アートの裾野の広がりだ。かつて「分からない」と遠ざけられてきた現代アートへ関心が高まり、市民向け企画での現代美術作家の起用が増えてきた。作家側も地域の歴史や風土をリスペクトし対話を重んじる傾向が強まっている。ダンスや演劇を採り入れた共同制作も目立つ。

 気がかりなのは、各地に充実した企画がありながら、九州を巡る視点での情報をまとめて得ることが難しい点だ。特に初回の企画は域内や知人に対する発信に限られがちだ。制作現場で作家と住民をつなぐ担当者のビジョンやネットワークが要になると考える。九州の面的なアート情報を得られる場があれば人々の交流、新しい出会いがさらに増えることだろう。

 

▼みやもと・はつね 
アートコーディネーター、インディペンデントキュレーター。
1980年代から福岡市を拠点に街なかでのアートプロジェクトや国内外のアーティスト交流事業を企画運営。行政や企業と協働するアート事業、アートマップなどの出版を行う。元福岡アジア美術館アーティスト・イン・レジデンス主任コーディネーター。

 

=(12月8日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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