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【コラム】アーティゾン美術館から名品80点 久留米市美術館10周年展 生き続けるコレクションの「いま」

2026/03/26 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 福岡県久留米市の旧石橋美術館が「久留米市美術館」として再出発して10年。節目を記念した展覧会「美の新地平」が同館で開かれている。石橋美術館時代の顔と呼ばれた青木繁の「海の幸」をはじめとする名品が東京のアーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)から里帰り。日本近代洋画や印象派を軸に、新たな風を取り込みながら生き続ける石橋財団コレクションの「いま」を見せる。 (川口安子)

森村泰昌「M式『海の幸』第3番:パノラマ島綺譚」(2021年)
©Morimura Yasumasa
青木繁「海の幸」(1904年、重要文化財)

 2016年まで旧石橋美術館を運営してきた石橋財団のコレクションは約3千点にのぼる。ピカソにルノワール、クレー、尾形光琳など本展の80点は、国重要文化財3点を含むスターぞろいで、うち66点が近年新たに加わった新収蔵品だ。「その後の石橋財団コレクションがどうなっているのか。名品を並べるだけでなく、コレクション形成の流れを伝えたい」。久留米市美術館の担当学芸員、森智志さんは語る。

 コレクションの源流は約100年前、市出身の実業家、石橋正二郎が始めた個人収集にさかのぼる。少年時代に図画を習った7歳上の坂本繁二郎から「同郷の青木の絵を後世に残してほしい」と頼まれて収集を本格的にスタート。終戦直後に国外流出が危ぶまれた旧松方コレクションなどの西洋美術も買い集め、1952年、東京にブリヂストン美術館を開いた。56年には石橋財団を設立し、石橋美術館を中核とする石橋文化センターを故郷へ寄贈。国内にほとんど美術館がなかった時代で、両館は東西の先駆けとして美術の土壌を耕した。
 石橋美術館の収蔵品は2016年、市への運営移行と同時にブリヂストン美術館へ移管。同館はビルの建て替えを経た20年、アーティゾン美術館と名を改めて開館し、コレクションもさらに拡充されたのだった。

 現在は正二郎の孫の寛さんが理事長を務める石橋財団。3世代にわたるコレクションを本展で見渡すと、今や「古典」となりつつある近代洋画や20世紀の西洋美術が、当時は「同時代」だったことを実感する。
 近代洋画の巨匠、藤島武二が晩年まで手元に置いた油彩「黒扇(こくせん)」は、22歳下の正二郎が藤島から信頼を得て託された逸品だ。20世紀を代表する抽象画家のザオ・ウーキーは、同い年で交友が深かった正二郎の長男の幹一郎によってコレクションに加わるようになった。

藤島武二の作品も。旧石橋美術館時代の「黒扇」(右、重要文化財)と新収蔵「東洋振り」が並ぶ

 新たな収集の方針について、寛理事長は「昔の作家がどのように描いたのか、創造のプロセスを感じ取ってもらうことを大切にしている」と明かす。
 その一端が、コレクションに関連した新作を現代作家に作ってもらうアーティゾン美術館の企画だ。現代美術家の森村泰昌さんは21年、未完とされる「海の幸」の続編として、独自の解釈によるセルフ・ポートレート連作を制作した。森村さんがさまざまな役割の女性に扮(ふん)して絵の登場人物のように並んだ本展出品作は、「海の幸」で描かれた人物への想像も膨らませる。アーティゾン美術館の伊藤絵里子学芸員は「『海の幸』が東京にあることで実現できた企画と言え、新たに関心を寄せてもらう機会になっている」と話す。

 東京に移ってしまった石橋財団コレクションだが、久留米の学芸員を育てる上で今も大きな役割を果たしている。財団は収蔵品の貸し出しや寄託、展覧会費用の特別助成のほか学芸員の育成にも協力。久留米市美術館の開館に伴い16年に採用された森学芸員も約1カ月間、アーティゾン美術館で研修を受けた。日頃は九州の近現代美術を専門としているが、西洋美術なども幅広く学ぶ。本展では抽象絵画の創始者とされるカンディンスキーの新収蔵品を結節点に見立て、正二郎時代に収集されたセザンヌから戦後の抽象美術まで、抽象絵画の展開を一本の線として並べた。久留米市美術館の森山秀子副館長は「展覧会の企画は学芸員の専門性を深めてくれる。本展を担当したことで吸収できたものは大きい」と言う。

新収蔵のカンディンスキー「自らが輝く」(1924年)

 開館時45点から出発した久留米市美術館の収蔵品は10年間で約320点まで育った。独り立ちした久留米市美術館はどんな「いま」を描くのか。自館のコレクション展は10月に迫る。

◇「美の新地平 石橋財団アーティゾン美術館のいま」は5月24日まで(展示替えあり)。一般1500円、65歳以上1200円、大学生以下無料。

=(3月26日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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