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【コラム】アジアの女性アーティストを紹介するウェブサイト「アジアの女性アーティスト:ジェンダー、歴史、境界」とオーギカナエ さん

2026/05/12 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 アジアの女性アーティストをデーターベース化し、その活動を紹介するほか、インタビュー等を通じてアーティストの声も発信しているウェブサイト「アジアの女性アーティスト:ジェンダー、歴史、境界」。
 同サイトで、インタビュアーとして共同するインディペンデント・キュレーターの川浪千鶴さんに、サイトの成り立ちや、最新のインタビューが掲載されている福岡県在住のアーティスト・オーギカナエさんについて紹介いただきます。

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 「アジアの女性アーティスト:ジェンダー、歴史、境界」という興味深いウェブサイトがあります。1990年代からジェンダーの視点に注目した活動を、美術館や評論の現場でいち早く行なってきた美術史家の小勝禮子さんが、「アジア・女性・歴史のファクターが出会ったことで生まれる芸術に注目して、これまでの伝統的な男性中心の記述から解放し、女性を含めた芸術史を記述し直すこと」を目指して、2020年に開設しました。アジア圏を出身や拠点にしている女性アーティストたちの活動を、和英バイリンガルのデータベースとして、日々アーカイブし発信しています。
ウェブサイト「アジアの女性アーティスト:ジェンダー、歴史、境界」

 同サイトの中で私が主に共同しているのは、2023年にスタートした「インタビュー」部門。中高年で日本女性のベテランアーティストたちに、生い立ちから現在に至るライフコースとともに創作の原点や変遷、そして将来など、数時間自由におしゃべりいただき、年間3名程度、これまで9名分を収録、紹介してきました。

 誰にインタビューするかはメインのインタビュアーに一任されますが、私が担当の際は、九州など地方に生きる女性アーティストたちのロールモデルになる人を意識的に選んでいます。福岡県在住のアーティストとしては、これまで2023年9月に草野貴世さん(古賀市在住)、2025年12月にオーギカナエさん(久留米市在住)をインタビューし、オーギさんのものは4月6日に公開されたばかりです。
オーギカナエさんのインタビューはこちら

《HOLE―洪水を見るために》 1992年  アクリル、木炭、鉛筆、キャンソン紙、木、真鍮 
個展(E’スペース・東京)

 オーギさんは1963年佐賀県唐津市生まれ。美術大学進学を機に上京し、93年まで東京で活動。「絵は空気をつくるもの」という考えからスケールの大きい色彩豊かな絵画作品やインスタレーションを手がけ、毎年のように個展を開催しましたが、東京で一人頑張るのではなく、福岡に帰ってみんなで一緒に生きてみようと考え直して、94年に帰郷。アーティスト牛嶋均さんとの結婚を機に、拠点を久留米市に移し現在に至ります。仕事や出産、育児に忙殺される日々から、絵画など「モノ」としての美術だけではなく、ワークショップなど「コト」としての美術のあり方を大事に、両者を区別することなく表現の可能性を広げてきたのは本当にすごいことです。

《キッズスペース 森のたね》 2019年 ミクストメディア 福岡市美術館(常設)

 中でも興味深かったのは、母親経験があるなしを問わず多くの女性たちを対象に母親をめぐる質問を行い、それぞれの言葉を作品化した《マザーズトーキング》(1999年〜2005年)。出産や育児について誰もが一緒に考えることができる先駆的なリサーチベース・アートです。また、2017年にスタートした「スマイルの旅プロジェクト」では、黄色い《スマイル茶室》という作品の中で、人々が集いお茶を飲む行為そのものを「茶の湯」として楽しみ、そこで得たスマイルを持ち帰ることを「モバイルスマイル」と名付けています。国内外で人気を博し、今後もライフワークのプロジェクトとして継続する予定とのこと。

《モバイルスマイルティールーム》 2018年 木、鉄、ターポリン、スマイル茶道具 
「Open Air2017」(オレブロ市・スウェーデン)
《スマイル茶室》2025年  鉄、防水布、鏡、莞草織のクッション
「第1回松山湖ビエンナーレ」(東莞市・中国)

 コロナ禍に人とのつながりを考えて円環を描いた《トーラス》シリーズや、筑後の豪雨災害を経験した後の、カラフルで軽やかな、儚い和紙のインスタレーション「軽さ・明るさ」など、近年のテーマは「回復、希望」。結婚、仕事、出産、育児、介護など、様々な人生の紆余曲折を経験しながらも、美術について考え続けること、創作することを決して手放すことなく歩んできたオーギさん。60代前半になった現在の表現は、一見小さくて慎ましくとも、周りの空間ごと人々を包み込むような豊かで不思議なオーラを放ち、昨年「第3回福岡アートアワード」を受賞するなど、その評価は近年ますます高まっています。

左:《引き合うふたつⅠ〜Ⅲ》《交わるふたつⅠ〜Ⅲ》
中央:《ピンクとブルーのトーラス》
右:《黄色のトーラスⅠ〜Ⅴ》 2022年 キャンバスに油彩
個展「永遠はなくてもつなぐことはできる smile∞torus」(EUREKA・福岡市) 
写真提供:EUREKA
《めじろ眼鏡の森》 2024年  八女和紙、アクリル絵の具 サイズ可変 
個展「軽さ・明るさ」(EUREKA・福岡市) 
   「第3回福岡アートアワード」優秀賞、福岡市美術館所蔵
写真提供:EUREKA

 ベテラン女性アーティストへのインタビューは、もしかするとインタビューする私自身がこれからの人生を考えるために、彼女たちの話を聞きたいということが一番の動機かもしれません。きっと皆さんにも、彼女たちの歩みや経験が希望の在処をそっと教えてくれることでしょう。

川浪千鶴(インディペンデント・キュレーター)

オーギさんの最新作は、「拍する家」展(参加作家:牛島智子、オーギカナエ、草野貴世)で見ることができます。(会場:旧玉乃井旅館、福岡県福津市/5月24日まで) 

「拍する家」展 開催概要
◆「拍する家」展 公式Instagram
オーギカナエ(仰木香苗)
公式ウェブサイト
https://www.ohgikanae-works.com/

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