魔都の鼓動 上海現代アートシーンのダイナミズム
2018/09/22(土) 〜 2018/11/25(日)
10:00 〜 20:00
熊本市現代美術館
2018/10/17 |
めまぐるしく変化する街の熱気が渦巻いていた。最初に出迎えたのは巨大な孔子像。別の部屋では計器が首を振りながら周囲の放射線量を測り続ける。ネット検閲を批評するインスタレーションもあれば、ポップな音楽に合わせた特撮動画もある。美術史や社会への批評性をまとう現代アートという「鏡」が、混沌(こんとん)とした上海を映し出していた。
熊本市現代美術館で開催中の企画展「魔都の鼓動 上海現代アートシーンのダイナミズム」は、国内初紹介を含む作家と作品を紹介する。改革開放直後の中国現代美術の黎明(れいめい)期から活動するベテランや、1980年代生まれの若手ら13組の作品が並ぶ。
上海という「横串」が通っているはずだが、作品の共通点を捉えにくい。同展を企画した佐々木玄太郎学芸員も「上海の現代アートをひとまとめで表すのはとても難しい」と口が重い。
背景には、80年代を境に大きく異なる中国の社会環境がある。40~70年代に生まれた作家は、文化大革命(文革)期の苦難など大きな社会のうねりと、それにのみ込まれる個人が切っても切れない関係にある。
76年生まれのダイ・ジエンヨンさんの作品「三十年、一つの家」は、自分の家族を撮り続けた大量の写真だ。文革時代に地方に下放された親世代や、開発に伴う住宅の立ち退きで大家族が離散するなどの社会問題を浮き彫りにしている。
一方、1980年以降に生まれた「80後(バーリンホウ)」と呼ばれる世代は文革の経験や天安門事件の記憶がなく、市場経済移行で豊かになった社会で育った。ネットが身近にあり、高学歴で留学経験もある。中国がこの数十年で駆け抜けた超高速近代化の申し子といえる。生みだす作品もグローバルで現代的だ。
象徴する一人が日本のアニメや漫画に影響を受け、今年、東京でも個展を開いた84年生まれのルー・ヤンさんだ。クローン人間、サイボーグ、人工知能(AI)ロボットの3者が新世界の覇権を巡って争う物語を描いた映像作品を、熊本城天守閣を再現した特撮セットを使って制作した。アニメの多用や過剰なまでのポップさの中に仏教的な価値観を織り交ぜた作品に世界が注目する。
上海で活動するキュレーターのワン・イーチュエンさんは「80後の作家は初めから世界中の作家を相手に競っている。地域性はあまり重要ではない」と指摘する。
都市の成長も地域の固有性を漂白してきた。2010年の上海万博以降、地元政府の政策で跡地を中心に美術館などアート関係施設建設やイベントが急増。実験的な展示や活動が活発に行われている。政治の中心地である北京に比べ、政治的な圧力からの自由度が高く、私立美術館を設ける個人や企業コレクター、他地域から移住する作家なども増え、美術産業のインフラ整備も進んだ。
日本では「意味が分からない」と敬遠されがちな現代アートだが、上海では熱心な鑑賞者が増えている。ワンさんは「市民が物質的な満足感に飽きて、精神的な満足感を求めている」とみる。若い世代を中心に、作品を背景に自撮りしてSNSに投稿する姿も目立つ。美術館が集客のために「インスタ映え」を狙う傾向が強くなっているという。
日本でも近年、現代アートをキーワードに、美意識を鍛えることを勧めるビジネス書や、まちづくりを目指す自治体が増えている。その何倍も先を突き進む上海発の現代アートという「鏡」の中に見たカオスは、実は急激な変化を続ける隣国の勢いに圧倒される日本人の姿なのかもしれない。(佐々木直樹)=10月15日 西日本新聞朝刊に掲載=
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