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福岡アジア美術館
2018/12/28 |
九州・山口の展覧会情報やアートに関連情報を発信するWEBマガジンARTNE(アルトネ)は2017年4月の立ち上げ以降、2年目となった2018年もたくさんの展覧会をご紹介してきました。その情報発信で培ったネットワークを駆使し、ARTNE編集部では2018年に開催された展覧会入場者数のアンケートを実施。美術館・博物館からの回答を元に作成した独自の<入場者数ランキング>を本年も発表します。
このランキングの所感を2017年版に引き続き、福岡市美術館副館長・中山喜一朗氏にご寄稿いただきました。(編集部)
「アルトネ」調べによる2018年の展覧会入場者ランキングを見た。特別展などのうち5万人以上の観覧者があった展覧会に限られている。だからこれで九州・山口エリアの展覧会事情すべてがわかるわけではないが、それでも考えさせられることがある。
1年前の2017年のランキングでは、古美術であれ現代美術であれ、ごく普通に美術作品が並ぶ展覧会が少なく、「美術以外」と「体験型」というキーワードが浮かぶものが目立ったこと、それはしかし近年の傾向として自然な流れであるとポジティブにとらえ、サブカルチャー系の展覧会の存在が、展示空間や見せ方への工夫、そして学芸員の創造性につながればいいのだと書いた。2018年もこの傾向は続いている。さらに加速しているようにさえ感じる。それだけ“普通の美術展”が目立たなくなっている。
気になるのはランキング入りした展覧会の本数と合計入場者数である。合計14本、1,151,558人。2017年は18本、1,577,200人だった。1年前よりも本数で4本、人数で40万人以上減少している。猛暑や自然災害の影響があるのかもしれないが、17年のトップ2だった「ジブリの大博覧会」が2本合計で34万人強あったから、これを差し引けばそれほどの大差はなくなる。その年にジブリ展が何本あるか、またはないかでこれだけ差が出る。それがわかるとため息も出る。
1位の「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」(九州国立博物館)の数字は興行としてよかったのか悪かったのかわからないが、ルノワールやセザンヌの超のつく有名作が含まれていたことを思うと、20万人に届かなかったのは意外である。印象派と名がつけば大量動員が見込める時代はとうに終わっているが、これだけ質の高い印象派展であっても爆発的な入場者にはつながらなくなったということか。九州国立博物館の展覧会としては独自企画の「王羲之と日本の書」のほうが同館にとって重要な特別展だったかもしれない。書の展覧会の決定版ともいうべき内容であり、まず見ることのできない作品ばかりがずらりと並んでいた。書の良さはわかりにくいし地味だという声を聞いたが、10万人を超えてほしかった展覧会である。
「体験型」展覧会の中で注目されたのは2年連続ランキング入りした「おいでよ!絵本ミュージアム」(福岡アジア美術館)である。2007年から同じタイトルで開催されているが、第1回の4万人台前半から着実に入場者数を伸ばし、2018年は過去最高の5万9千人だった。12年も続き、しかも入場者数を増やしているのは特筆される。就学前の子供たちが楽しめる点が最大の特徴であり、リピーターを中心にした動員につながっているのだろうが、12年経つと子供の世代交代も確実に起こっているはずだ。赤ん坊が中学生になる。それでも入場者数を増やしているということは、それだけ夏の子供向けイベントとして定着しているということである。夏休みの親子連れをターゲットにした展覧会やイベントはどこも概ね好調だとわかるが、一度きりのテーマや他所から巡回してきたものも多い。だから質を保ちながら継続するのに四苦八苦するし、年によって入場者数も変わる。独自企画で連続開催できている「絵本ミュージアム」は主催者にノウハウの蓄積ができる点に強みがある。大規模なイベントではないが、少ない予算と人員で悪戦苦闘しながらも、日ごろから子供たちをメインターゲットにした地道な教育普及活動に熱心に取り組んでいる館は多い。そうした活動に参加した子供たちがミュージアムを支えてくれる大人に成長してくれればと願う。
ところで、わずか2年の九州・山口エリアのランキングからいえることではないのだが、全国的に見て展覧会やミュージアム活動はきわめて活発であるとはいえないように思う。近年のことではない。長くミュージアムと展覧会にかかわってきたというだけの極めて個人的で不確かな感想にすぎないが、巨視的に見れば90年代前半、半ばあたりからずっと低空飛行が続いてきたように感じられる。バブル景気の崩壊に続く社会の閉塞感と連動していたような気がする。本来なら、そうした時期こそミュージアムが果たせる役割が大きくなってしかるべきなのに。展覧会を一方で支えていた新聞社や放送局などのマスコミも鼻息の荒かった80年代と比べると大人しくなった。全国巡回展の共通経費捻出にとって力強い味方だったデパートも美術展を開催しなくなって久しい。大企業が設立した美術館がいくつか閉鎖したりもした。
それでも展覧会は続く。だから観覧者を動員できて赤字にならないことが前提になり、失敗しない展覧会やイベントをより強く求めるようになる。人が来るテーマやジャンルがあれば、よく似たものが多発し、連続する。博物館と美術館の役割分担も不明瞭になり、どこでもなんでもありの状態である。時代が変わり、入館者もミュージアムも多様化し、展覧会は一過性の性格を増してイベント化したのだと開き直ることはできるし、一概に否定するつもりもない。そうした動きがあってこそ展覧会活動は存続してきたのだ。ただし、未来が見えにくい状態が続いていることも確かではないだろうか。長く続いた閉塞感は薄れ、経済活動は活発になってきたといえるのなら、ミュージアム活動にも変化の予兆があってよいだろう。2019年はどのような年になるのだろうか。
現有のミュージアムの多くが改修時期を迎えつつある。そのことが変化をもたらす可能性はある。福岡市美術館も2年半の休館を終え、2019年3月21日にリニューアルオープンする。より敷居を低く、入りやすく、親しみやすく、楽しみの多い場所となることを目指した改修だった。拡充したコレクション展示室を最大限に生かして、館蔵のスター作品たちを大々的に売り出すオープン記念展を準備中である。開館して以来2300万人以上の観覧者があるが、その多くはコレクション展以外の展覧会が動員してきた数字である。特別展に来てもらうのはうれしいが、本音を言うともっとコレクションを見てもらいたいと思っているのは、どこの館員も同じではないだろうか。だったら、その本音が実現するためにどれだけ努力をしてきたかと自問することも必要である。リニューアルで大事なのは意識改革だと思う。さて、2019年にはコレクション展示、常設展示の観覧者ランキングなどやってみてはいかがだろう。現実を直視しないと、未来は変わらない。
中山喜一朗
福岡市美術館副館長。1954年大阪府生まれ。東海大学大学院芸術学修士課程卒。
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