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「バブルラップ」村上隆さん命名 熊本市で企画展 日本人の美意識に潜む「清貧」【コラム】

2019/03/02 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

戦後日本の美術史の空白期間に呼称を与え、切り口を提示する。そんな取り組みに美術家の村上隆さんが挑んでいる。対象期間は1980年代が中心。自身が収集した総計約2千点に及ぶコレクションを基に捉え直そうとする試みだ。村上さんは当該期間の日本の現代美術を「バブルラップ」と命名し、自ら監修する企画展を熊本市現代美術館で開いている。

「バブルラップ」展の狙いなどを語る村上隆さん

90年代後半、村上さんは浮世絵や琳派など日本の伝統美術と、アニメや漫画など戦後日本のサブカルチャーの平面性に類似性や同質性を見いだし、自身を含めてアニメなどの影響を受けた美術家の動きを「スーパーフラット」と名付けて世界に発信した。近年は、日本の美術運動は60年代末から70年代の「もの派」と00年代の「スーパーフラット」までの間に呼称がないとして、バブル経済期に当たる空白期に着目してきた。

そして名付けた「バブルラップ」とは。
壊れやすい物を包むときに使うビニール製の梱包(こんぽう)材のことである。「プチプチ」と呼ぶ人も多いだろう。村上は少し力を込めれば簡単に割れる気泡のもろさや、何でも包む安価な梱包材に清貧を良しとする日本人の美意識を重ねたのだ。

段ボールを使った日比野克彦さんの代表作
「GRAND PIANO」(手前)と「BIKE」(奥)。
村上さんはバブル期を代表する美術家として注目する

バブル期を中心としながらその前後の時期も俯瞰(ふかん)しようとした展示は二つに分けられる。前半は白い壁や床に荒木経惟さんや森村泰昌さん、奈良美智さんなど60年代後半から00年代までの作品が並ぶ。中でも村上さんが着目したのが、80年代に段ボールを使った作品で知られた日比野克彦さんだ。会場には代表作「GRAND PIANO」や「BIKE」などを展示。バブル期に安価で入手しやすい素材を用いた点を捉え、「日本人の底にはいつの時代にも清貧を良しとする意識がある」と考察する。

後半は、東日本大震災後の混沌(こんとん)をイメージした空間をあつらえ、暗がりの中に約1700点もの陶芸や骨董(こっとう)品を並べた。大半は数千円で販売している素朴でシンプルな皿や器だ。前半と「断絶」しているような展示だが、権力や富を持つパトロンが支える西欧型の伝統的なシステムとは対極にある、大衆が支える芸術という点で通底している。

戦後美術を再検証する「旅」の果てにたどり着くのは、店舗ごと再現した「古道具坂田」(東京)のインスタレーションだった。
店主の坂田和實さんは、使い込まれたコーヒーフィルターや雑巾など、従来の古美術品の世界で見向きもされなかった生活雑貨に新たな価値を見いだし、固定化しがちな価値観を革新してきた。その姿は今回の展示全体に込めた村上さんの思いとも重なる。

実用的な生活工芸が大量に展示されている

「わび茶」を確立した千利休や、民藝運動の創始者である柳宗悦、随筆家の白洲正子など数寄者の先人が選んできたものは、黄金や宝石を使って贅(ぜい)をこらした特別な貴族のため美術ではなく、いずれも日常工芸品だった。坂田さんの独自の見立てや、バブル経済崩壊後に不況に陥った日本人が自力で発見した「美」が実用的な器だったことも同じ地平にあると言える。

村上さんが提唱した新たな概念は、戦後の美術史を射程にした壮大なテーマ。説得力を持たせるには展示品にバブル期の作品が少なく、個人コレクションの限界も感じた。むしろ、大竹伸朗さんや岡崎乾二郎さん、中原浩大さんなど先輩美術家の作品や自ら掲げた「スーパーフラット」に呼応する作品を集め続けた村上コレクションは、先達の作品や活動を凝視する無名だったころの村上さんの飢餓を感じさせ、芸術家としての業の深さを可視化している。村上さんが個人史を通じて投げかける「同時代論」の趣がある企画展だ。(佐々木直樹)=2月26日 西日本新聞朝刊に掲載=

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