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華やかさと裏腹の影 先入観揺さぶる 英国代表するナイジェリア系美術家 インカ・ショニバレさん国内初個展 福岡市美術館【コラム】

2019/04/25 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

●複雑な歴史持つ布使用 「桜」モチーフの新作も
作品の表層の華やかさだけに目を奪われてはいけない。多くの作品に用いている「アフリカンプリント」と呼ばれる綿布は、極彩色と奇抜な柄の美しさと裏腹に、その成り立ちには歴史の影が差しているからだ。一見、アフリカらしい生地は、実は19世紀以降の欧州でインドネシアの布地を基に製造され、植民地のアフリカで販売されてきた、いわば押しつけられた輸入品といえる。そんな複雑な歴史を持つ布を戦略的に使った作品群は見る側の先入観を揺さぶり、歴史をひもとく楽しみを与えてくれる。 (佐々木直樹)

今回の個展のために制作した新作「桜を放つ女性」

大規模改修を終えて、2年半ぶりに再開した福岡市美術館の特別展示室で、英国を代表するナイジェリア系の美術家インカ・ショニバレさんが国内初個展を開いている。
作品の素材だけでなく、本人の生い立ちも複雑だ。ロンドンで生まれ、幼少期を両親の母国である元英国領のナイジェリアで過ごした。ロンドンに戻って美術や哲学などを学ぶと、1990年代からアフリカンプリントを使った絵画や彫刻、映像作品を発表。アフリカと欧州の権力構造に疑問を投げかける作品は高く評価されている。
この布に着目したきっかけは、アートカレッジの教授が投げかけた「なぜ真正なアフリカの作品を作らないのか」という言葉だったという。アフリカの人々に対する歴史的なステレオタイプ化に挑もうとする中、ロンドンの市場で出合ったのが、複雑な生い立ちを持つ布だった。
以来、作品を通じて固有文化の不確実性を表現し続ける。富裕層のシンボルであるドレスの生地に植民地の衣服に使われるアフリカンプリントを使うことで、宗主国と植民地、男性と女性、富裕層と貧困層、白人と黒人などの二項対立を、作品の中で反転させたり、ずらしたりしてきた。
写真作品「ヴィクトリアン・ダンディの日記」。英国が世界中に植民地を広げた19世紀後半の貴族社会で生きる黒人男性の一日を描く。写っている男性は本人だ。近代絵画で使用人や執事などとして描かれてきた黒人を「主役」として画面中央に配置することで白人中心に回ってきた世界の不均等を照射し、歴史を反転させている。
女性を取り上げた作品も目立つ。本展のために制作した新作「桜を放つ女性」もその一つだ。ドレスをまとった女性がライフルを構え、銃口から桜の木が放たれている。頭に据えられた地球儀には、19~21世紀に女性の権利獲得運動に寄与した世界中の女性の名前が記されている。
銃口に花というモチーフは、60年代後半の米国で起きたベトナム反戦デモで、鎮圧に出動した兵士の銃口に若者が花を挿した写真を連想させる。この作品は、非暴力的で創造的な力で困難な状況を打破しようとする今を女性たちを称賛し、励ましているように映る。
一方で、新作は女性の地位向上を放置し続けている日本社会を挑発しているようだ。昨年12月に世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ指数によると、日本の男女平等度は調査対象149カ国のうち、先進7カ国で最下位の110位。同館で同時開催中のコレクション展も女性美術家の作品は少なく、大半を男性が占めている。
鋭い批評的視点を美しい表層で包んだ作品たちは、歴史だけでなく、現代社会と切り結び、鑑賞者にこう問うてくる。「このままでいいのか」。この投げかけこそが、リニューアル後、最初の特別展にこの美術家が抜擢された理由でもあろう。

●「文化の成り立ちは混ぜ合わせ」 争いを生む自国文化への固執 インカ・ショニバレさんに聞く
 


福岡市美術館で国内初個展を開催中のインカ・ショニバレさんに作品に込めた思いなどを語ってもらった。

-権力や支配構造といった歴史的、政治的なテーマを扱っているが、作品はどれも楽しく、美しい。
私の作品はシリアスな主題を扱っている。多くの人に考えさせるような作品を作るべきだと思うが、同時に、まずは楽しみながら見てもらうように気をつけている。ファッションの様式を取り入れているのもその一つだ。

-アフリカンプリントを使うきっかけとなったアートカレッジの教授の指摘は、人種的な文化の固定を強いる発言だと思うが、どう受け止めたのか。
教授が言わんとしたステレオタイプを受け付ける気はまったくなかった。私が使う布自体が国際色豊かで、「アフリカの布」と言われているが実態は違う。つまり、アフリカ人も近代化し、国際的であり、他国の文化から影響を受けてきたことを伝えたかった。

-文化とは世界が互いに影響し合って創出されると考えているということか。
その通りだ。自国固有の文化だと思われているものでも歴史を振り返れば、他の文化から取り入れ、混ぜ合わせて成り立っていることが多い。そもそも文化とはそういうものだ。他の文化を歴史的にどう取り入れてきたのかを理解するのが非常に大事なのだ。
人は自国の文化のすべてが「自分たちのもの」だと考えがちだが、そんな考え方をするから世界が分断され、争いが起きる。私たちの文化は同じものを共有しながら生まれたのだということを強調したい。

-アーティストネームに大英帝国勲章の称号を付けている狙いは。
やりたいのは、矛盾を表現するということだ。全然英国人らしくない私の名前に、英国の三等勲位(CBE)という称号が付いているというのが面白いと思っている。


-今後の抱負は。
世界中の芸術家が文化交流できる機会をつくりたい。そのためにナイジェリアにアーティスト・イン・レジデンスのための場所を建築中だ。世界中から芸術家を招き、現地の芸術家と交流してお互いに学べるようにしたい。日本や福岡の作家にも参加してほしい。

=4月5日 西日本新聞朝刊に掲載=

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