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「豹変」する いわさきちひろ<中>戦争 傷つく子らに心寄せ【コラム】

2019/04/18 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
「戦火のなかの少女](1972年)=岩崎書店「戦火のなかの子どもたち」

戦争と子どもをテーマとするいわさきちひろの絵本は3冊ある。広島の被爆者の手記を元にした「わたしがちいさかったときに」(1967年、童心社)▽ベトナム戦争で母親が戦場に向かった子どもたちを描いた「母さんはおるす」(72年、新日本出版社)▽ベトナムの子どもたちと自らの戦争体験を重ねた「戦火のなかの子どもたち」(73年、岩崎書店)-である。
筆致は、ちひろに付きまとう「かわいい」「やさしい」「やわらかい」というイメージとはかけ離れている。まさに「豹変(ひょうへん)」。戦火におびえ、死を意識した子どもたちの表情はうつろで、視線は宙をさまよう。

「焼け跡の姉弟」(1973年)=岩崎書店「戦火のなかの子どもたち」。幼い弟を背負った姉。2人を戦争の黒い影が取り巻く


「戦争というのは、家が焼かれるとか、人が殺されるとかいうことだけじゃなくて、人の心もむしばんでしまうのです」(72年「人生手帳」文理書院)。ベトナム戦争は泥沼化していた。ちひろは戦争で傷つく子どもたちに心を寄せた。
そこには自らの戦争体験が影響していた。ちひろの母親は若い女性を満州移民の花嫁候補である女子開拓義勇隊として送り出す組織の責任者。自身も義勇隊員に書道や家事を教える目的で満州を訪ねた。ちひろは無事に帰国したが、ソ連参戦の混乱で義勇隊員の多くは生死不明となった。
45年5月25日の東京山手大空襲では自宅が焼け落ちた。死者3千人以上。ちひろも凄惨(せいさん)な場面を目撃しただろう。「戦火のなかの子どもたち」に添えて「戦火のなかで、こどもたちがどうしているのか、どうなってしまうのか、よくわかるのです」と記している。
戦争を題材にした絵は、ちひろが好んだ桃色、藤色、淡い水色で塗られることはなかった。紙がはがれるほど消しゴムをすりつけた線も残る。ちひろにとって暗黒の記憶が鮮烈な戦争は怒りの対象でしかない。=4月4日 西日本新聞朝刊に掲載=

※画像は、ちひろ美術館提供

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