江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2019/05/18 |
2016年4月の熊本地震ほど文化財の被災状況が注目された災害はないだろう。広範囲に石垣が崩壊し、傷ついた熊本城の姿は「象徴」となってきた。一方、支援が少なく、消失の可能性すらあった文化財も数多く存在する。そんな市井の文化財の価値に光を当て、保全の必要性を伝える企画展が熊本県立美術館本館(熊本市中央区)で開かれている。
会場で目を引くのは、最大震度7を2度記録した同県益城町の「木像千手観音菩薩(ぼさつ)立像」だろう。町指定文化財だが同町の寺が所有し、2年にわたる修理を終えて被災後初めて公開された。鎌倉後期とみられる高さ約2・8㍍の仏像は、揺れで足元から折れ、腕の一部も外れる被害を受けた。
この仏像や阿蘇市指定重要文化財の「木造観音菩薩立像」は、文化財修復の助成活動に取り組む住友財団(東京)の支援を受けて修復された。だが、市町村指定や未指定文化財に対しては、熊本県が寄付金を財源に基金を創設して支援しているが、所有者に一定の自己負担が求められるため本格的な修復にいたらない事例もある。
被災文化財は、レスキュー事業で昨年12月までに倒壊した民家や商家、寺院など47カ所から約3万8千点を運び出し、応急処置を施してきた。住まいの再建が終わった所有者に随時返している。
会場には、同事業で救い出された古文書や美術品なども展示。熊本市の個人宅にあった「七滝図屏風(びょうぶ)」は、熊本藩の御用絵師が手掛けたものとみられ、これまで知られていなかった。細川家所有に似たものがあり、大名家と豪商ら町人の間で文化が共有されていたことや、町人の文化的素養の高さを示す。
企画展を担当した山田貴司学芸員は「地震を機に大量の文化財が表に出たことで、これまで検証されてこなかった研究分野に光を当てることもできる」と語り、価値の高さを指摘する。
展示品には、廃藩置県後に細川家が家臣に預けた4代藩主細川宣紀のものとみられる甲冑(かっちゅう)など、研究者らが地震前に存在を知らなかった古文書や美術品も少なくない。レスキュー事業で基にしたのは、県が1998年にまとめた古文書の所有者リストだった。資料が古い上、絵画や古美術などが含まれていないという課題も浮き彫りになった。
未指定文化財の所在の把握は、大規模災害への備えとして、他自治体にも教訓となる。山田学芸員は「熊本のリストも調査から時間がたち、所有者が代替わりしていた。リストを作るだけでなく、更新も必要」と指摘する。災害時は住民の避難場所が優先されるため、文化財の応急処置の作業場や保管場所の確保の課題も残る。
指定文化財が国の歴史の脈絡に関わる「幹」ならば、未指定文化財は大きな歴史を支える地域史を物語る「根」に当たる。災害のたびに未指定文化財が失われては、国の歴史が根無しになってしまう。「根」が張れる土壌づくりには、未指定文化財の面白さを伝える本展覧会のような地道な活動が欠かせない。(佐々木直樹)=5月14日 西日本新聞朝刊に掲載=
企画展「熊本地震から3年 熊本地震と文化財」は7月7日まで。
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