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「精神の風景」展 震災後 言葉にならない心象表現【コラム】

2019/06/24 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 熊本や大分に被害をもたらした地震を体験した芸術家ならではの視点や物語を期待した人は、肩すかしを食らうかもしれない。2016年4月の熊本地震を機に企画された風景をテーマにしたグループ展でありながら、作品からすぐには地震の被害や光景はうかがい知れない。むしろ、地震との関係性を大げさに語っていない点が共通点とも言える。

熊本や福岡を拠点に活動する美術家5人による風景がが並ぶ会場。中央の加藤の作品が地表の裂け目のように空間を分断している


 熊本で作品を制作する原口勉の企画。熊本や福岡を拠点に活動する上野洋嗣、浦川大志、加藤笑平、佐野直という気鋭の現代美術家4人に声を掛けた。
 まずは入り口脇にある浦川が本展のために制作した新作ドローイングが目に留まる。インターネット上の画像を参照した、風景をモチーフにした作品制作で知られるが、黒や茶色の布地に塗り重ねた作品は土着的な印象が強かった。ずらして展示した複数の布が層を成し、山の斜面が崩壊してあらわになった地層を連想させる。
 一方、展覧会企画者の原口は、地震を引き起こした断層が、人間が定めた「福岡」や「熊本」といった自治体の区分を越えて走っていたことに着想を得て始めた抽象画のシリーズ「局地絵画」を展示した。さまざまな太さの線や色で四角を描いた寡黙な画面は、人為的な境界線や区域を可視化しているようにもみえる。
 最も存在感があるのは、会場を二つに分断するように中央に置かれたインスタレーションだ。加藤の作品の一つで、空間をキャンバスに見立てて筆を走らせたように木材が縦横無尽に伸びる。無数の木材の隙間から作品をのぞく行為は、揺れやその後の復旧、復興作業を直に体験した「当事者」との距離感を追体験しているようでもある。
 奥の壁には、熊本を拠点にする上野と佐野の作品が並ぶ。ともに平面絵画だが対照的だ。上野が手掛けるのはロールプレーイングゲームの背景を思わせるような架空の風景。画面中央以外のピントをぼかし、肉眼でみるのとは異なる世界観を描く。地震後、大地の亀裂やずれ、火山などを描くこともあるという。

加藤作品の木材の隙間から覗く上野洋嗣の平面(正面の壁の作品)と佐野直の平面(右の壁の作品)。両者は対照的でありながら調和がとれている

 地震が作品制作に与えた影響は「ない」と断言する佐野の作品は、釣鐘島や阿蘇山の火口など、拠点を置く熊本で実際に見た風景を点描で描く。無数の小さな点を打ち重ねてゆく技法によって、切り取った日常の光景が叙情性を帯び鑑賞者の創造力を刺激する。
 五者五様の作品からは、言葉で言い切れない「何か」の表出がアートであると再認識させられる。会場の風景画は、沈黙の中に溶け込み、暮らしの音の中で砕け散ってしまった美術家たちの言葉にならなかった言葉のかけらだといえようか。地震から3年を経てなおマスメディアが言語化、あるいは可視化できなかった心象を発見した気分になった。
(佐々木直樹)=6月14日 西日本新聞朝刊に掲載=

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