江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2019/09/12 |
愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」。開幕から3日で展示中止となった企画展「表現の不自由展・その後」ばかりが注目されているが、展示はそれだけではない。国内外から参加したアーティスト90組以上が「情の時代」をテーマに時代と向き合い、魅力的な作品を発表している。九州出身の作家2人も意欲的な作品で存在感を放っていた。
●沖縄で受け取った反抗のエネルギー 廃校のプールとつながった/高嶺格さん
地の底からうなり声が聞こえてきそうだ。豊田市美術館に隣接する廃校のプールを全面的に使って制作された高嶺格さん(51)=鹿児島県出身、秋田市在住=の立体作品。プールの底面を縦12メートル、横6メートルの長方形に切り取って垂直に立てた様は壮観である。
アイデアが浮かんだのは、2月に実施された米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡る県民投票の直後。沖縄での取材を終え、作品の素材にしようと決めていたプールを再び訪れた高嶺さんの頭に、底面が立ち上がる絵が浮かんだ。
「意識的に沖縄とつなげてはいない。が、僕が沖縄で受け取った反抗のエネルギーであるとか、怒りとか、そういったものとつながっているかもしれない」
作品名は「反歌:見上げたる 空を悲しもその色に 染まり果てにき 我ならぬまで」。意味を限定したくないとの思いから、歌人の友人に作品を見て詠んでもらったという。
豊田市美術館内には、望遠鏡の形をした映像インスタレーションを出品した。流れるのは沖縄県民投票の翌日に360度カメラで撮影した辺野古抗議デモの映像だ。望遠鏡の角度を変えると映像の視界も変わる。県民投票の結果を伝える2月の新聞も一緒に展示した。すぐに本土では忘却されがちな沖縄のニュース。作品には「沖縄の人にとっては毎日続く出来事。もう一度思い起こしてもらいたい」との高嶺さんの思いが込められている。
●版画の手法を用いて インクを積み重ね 2年半かけ、3601回/今村洋平さん
愛知芸術文化センター(名古屋市)の今村洋平さん(41)=福岡市出身、神奈川県在住=の最新作「peak 3601」は、版画の手法を用いてインクのみを積み重ねた立体作品だ。中央の点の高さは3・5センチ。中心に向かって徐々に高くなるよう、2年半かけて3601回、版を重ねた。
今村さんがこの手法を編み出したのは東京造形大の版画コースで学んでいた4年生のとき。「シルクスクリーンがうまくいかなくて、絵を描くように版を重ねるうちにインクが立体的になると気付いた」と話す。
今作の四つのパーツは、一度に二つのパーツを刷る作業を2度繰り返して作った。同じ作業を繰り返すためには、インクの色や種類、刷った数などの情報をその都度記録する必要がある。会場には、大きなパネルに色鉛筆で書き込んだその記録や、作業過程を映した映像、120種類の版も展示している。会場でそうした膨大な記録に囲まれていると、作家本人も「どっちが本当の作品かごちゃごちゃになる」という。
「記録で部屋が埋め尽くされるようなものをただ作りたい」
版画という複製行為を反復することによって完成を目指す。「情報」を記録する過程そのものが作品だ。そのあり方は、日々を積み重ねる人生や人類の営みをも連想させる。
今村さんは「今はネットで山の情報を見れば行った気になるが、実際に登って感じることは全然違う。作品も同じで、生で見ないと分からないことがある」と訴える。
「表現の不自由展・その後」はその「生で見る機会」が奪われた状態だが、トリエンナーレ全体の展示は現在も継続中。芸術の秋。九州からも足を運び、出品作と向き合ってみてはどうだろう。未知の「感情」を揺さぶられる出合いが待っているかもしれない。(川口安子)=9月5日西日本新聞朝刊に掲載=
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