江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2019/09/26 |
第2次世界大戦中の米国で、強制収容所に送られた日系米国人や日本人移民がいた。外国人労働力の受け入れが進む日本で、異文化の共存をテーマに据える現代アーティストの中村亮一(37)=東京=は、この収容所に入れられた日系人らに改めて注目し、その肖像を独自の表現で作品化している。
福岡市で初となる個展では、アルミ、銅、真鍮(しんちゅう)の薄板に、米国で入手した肖像写真を転写した作品群「a Study of Identity」(2015~19年)を展示している。その数600枚近く。1枚1枚は2本のピンで壁に固定されただけ。人が通るたびに揺れ動き、日米間に挟まれた彼らの葛藤を暗示するかのようだ。
転写によってぼんやりとした肖像は、薄い色の帯や、転写時の加工で目鼻立ちが不明瞭にされ、何者かを特定されることを拒む。男か女か、大人か子どもか、かろうじて分かる程度である。仕上がりが予測できない転写や、顔の一部を隠すことには、人物のアイデンティティーをあえて消す意味がある。当時、日本的な特徴を如実に表す顔を隠したい、捨てたい、と思った日系人や移民も少なくなかったからだという。
アイデンティティーを消された肖像は見る者に不安な印象を与え、自らのルーツを否定せざるを得なかった悲しみ、苦しみを訴える。同時にそれは「日系」「日本人」というだけでひとくくりに差別され、独立した個人でいることを奪われた人々の肖像でもある。
中村は大学在学中、ドイツ・ベルリンに渡った。アジア人として差別的な扱いを受けたことで、アジア人とひとくくりにされて違和感を覚える自身こそが、他のアジア諸国の人々を差別していたことも自覚した。15年夏には3カ月間、福岡県嘉麻市の山裾にある廃校舎で、知人のオランダ人と滞在制作した。異質な者同士がコミュニケーションを重ね、認め合う過程を体感したという。その後渡米し、他文化の共生や差別の問題に目を向けた。
「異なる文化的背景で育ってきた人々と共存しあう社会を、いよいよ自分たちも迎えようとしている」。中村には日本へのこんな問題意識がある。これから身近に増えるであろう外国人たちが、中村の肖像のようにアイデンティティーの否定を余儀なくされるかもしれない。無言の肖像群から、「生まれや文化に起因する偏見を廃し、独立した個人同士が向き合う社会を目指そう」との力強いメッセージを感じた。(諏訪部真)=9月20日西日本新聞朝刊に掲載=
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