MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界
2018/03/21(水) 〜 2018/05/06(日)
09:00 〜 18:00
長崎歴史文化博物館
2019/10/10 |
分厚い辞書は高い壁、畳は黄金色に輝く田畑。クロワッサンは雲になって空に浮かび、サーファーがチャーハンの波に乗っている。実は、全て身の回りの品々や食品サンプルを別の何かに見立てて小さな模型用の人形を置いたミニチュアだ。ミニチュア写真家で、「見立て作家」として活躍する田中達也さん(37)=鹿児島市=が生み出すミクロな別世界。2011年から1日も欠かさず、撮影した作品をインターネットで更新する「ミニチュアカレンダー」は、見立てのセンスと尽きないアイデアの結晶である。
原点として思い出すのは、子どもの頃に畳の縁を道に見立て、ミニカーを走らせて遊んだ体験だ。
「横断歩道の白線だけを踏んで歩いた体験とか、ありませんか。子どもの頃は、今より自由な発想で物事を見ていましたよね」
一連の作品は「子どもの発想や視点を、大人が本気で形にしたらどうなるか」というコンセプトのもと、人々を縛る常識や固定観念を取り払い、新しい視点を獲得しようとする試みだ。
クリップやホチキスの芯、スポンジやブラシなど、制作にはさまざまな文具や日用品を使う。特別なものはなく、多くを100円均一で調達している。「百均」の商品は、自宅アトリエにおおむね勢ぞろいした。「百均の陳列を見ながら、新しいアイデアを思いつくことも多い」。人形は1・5センチほどの大きさが中心。いろいろな職業、ポーズで3万体はあるという。野菜や肉、アイスクリームや生ビールを表現する食品サンプルも欠かせない。
大地に見立てたポテトチップスの上で農作業をする「北海道の雄大なポテ地」、トイレットペーパーをゲレンデに見立てた「スキーに行っトイレ」。言葉遊びをちりばめたタイトルは見る人を笑わせ、うならせる。15年の独立以前、デザイン会社で広告制作やコピーライティングに携わった経験が生きている。
アイデアが出ずに困ったことはない。思いついたらすぐにメモ。あらゆる案を出して、出し尽くしたと思った後に、もう一回頭をひねる。そうして出てきた成果こそが、他の人が考えつかない本物なのだという。「アイデア出しは筋トレと一緒。自分に甘えないように毎日続ける」。クリエーティブな作品づくりをストイックな姿勢が支える。
NHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」(17年度上半期)のオープニング映像に登場するミニチュアを制作し、一躍脚光を浴びた。19年の年明けには人気番組「情熱大陸」にも取り上げられた。インスタグラムのフォロワーは200万人を超えた。
17年から各地を巡回している企画展は現在、福岡市で開催中。膨大な仕事の一端として、写真約100点、ミニチュアの実物約30点を選(え)りすぐって紹介している。累計来場者数は福岡会場で100万人を突破。9月中旬、田中さんがマイクを握ったギャラリートークの会場には、身動きが取れないほど多くのファンが詰め掛けた。
人を引きつけてやまない理由をこう分析する。
「見立ての能力は、人間に根本的に備わっていると思う。人間である以上、年齢や国籍に関係なく、見立てを楽しめる」
確かに日本でも、身近な対象を他の何物かに擬して、その対象に別な意味を持たせる見立ては文化の中に根付いている。日本庭園に敷き詰められた砂が水の流れを表し、落語家が扇子を箸にもキセルにも見せるように。話を人間全体に広げれば、人類に古くから備わった知性として人類学者が唱えた「ブリコラージュ」(寄せ集めのものを利用して別な新しい何かを創造する)の考え方も、田中さんの見立てと通底しているのかもしれない。
あらゆるものが「商品」として流通する現代は、自ら何かをつくり出す経験は減りがちである。手元のスマートフォンで何でも検索し、すぐに答えに到達した気にもなれる。そんな現代人は「想像力を失いつつあるのではないか」と田中さんは考える。
「見立ての考え方を生活に取り入れることで、大人になって失ってしまった遊びや、ゆとりを思い出してほしい」。見立てを通じ、日常生活の中で視点を変えれば見えてくる、もう一つの世界を伝え続ける。(諏訪部真)=10月4日西日本新聞朝刊に掲載=
※作品写真は©Tatsuya Tanaka
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