九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  コラム ›  約60が林立… 彫刻から考える長崎  森淳一さん、小田原のどかさん 実作者2人が都内で対談【コラム】

約60が林立… 彫刻から考える長崎  森淳一さん、小田原のどかさん 実作者2人が都内で対談【コラム】

2020/02/21 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

公園や街角など人の目に触れる場所に置かれることが多い彫刻は、人々の目にいや応なくさらされながら半永久的にその地に残る。そのため、絵画など他の美術作品よりも公共性が問われやすい。思想性を帯びた作品が地域で議論になることもある。例えば被爆地長崎市。近年、林立する平和を願う彫刻作品の検証があらためて進んでいる。研究者の一人で彫刻家の小田原のどかさんと、同市出身の彫刻家で東京芸術大准教授の森淳一さんが1月中旬、東京都の国立新美術館で「長崎と彫刻をめぐって」と題し対談した。

「年々、彫刻が長崎にとってどういう意味を持つのかを考えるようになった」と語る森さん。
左は小田原さん

同館で2月16日まで開催の「DOMANI・明日2020~傷ついた風景の向こうに」(文化庁など主催)の関連企画。同展は文化庁の海外研修経験者や芸術選奨、紫綬褒章に選ばれたアーティスト11人が参加し、身体や時空間の傷と再生をテーマに出品した。

テーマの構想のきっかけになった作品が、森さんの作品「山影」だ。黒大理石で長崎市の丘陵地をかたどった彫刻で、見る角度によって暗示的に外光を反射する。一昨年の冬、森さんは金比羅山の山頂から長崎市内を見下ろした時、「原爆の閃光(せんこう)はこの町を一瞬かたどり」、そして町が消滅したことを俯瞰(ふかん)の視点で実感したという。作品は被爆の前後を分けた一瞬をとらえている。

森淳一さんの作品「山影」(2018年、黒大理石)。
原爆投下の一瞬の閃光に照らされた街の影を投影した

対談で、小田原さんは「森さんの初期作品は人間をかたどりながら肉がない外郭のイメージ。『山影』では人体を離れ風景に向かった」と指摘し、森さんが「山影」に投影した原爆の閃光の一瞬を「極薄」と表現していることに注目した。

森さんの作品で「極薄」は時と時を隔てる一瞬として、肉体と外界を隔てる膜として表象される。本展では被爆マリア像をかたどった作品や、球体につけまつげを張りめぐらせ被爆者が最後に見た光をイメージした作品も出品した。いずれも陶製で、森さんは「被爆直後の街の温度を思い、そこに何かを投げ込むことで見えてくるものがあると思った」と言う。

長崎市の平和公園の平和祈念像

長崎市内には平和公園や爆心地公園、浦上天主堂の一帯だけでも約60の平和にまつわる野外彫刻が林立し、小田原さんは公共空間における彫刻のあり方を考え、長崎訪問を重ねている。中でも長崎県南島原市出身の彫刻家、北村西望が戦後復興半ばの1950年代初頭に制作した平和公園の平和祈念像は、莫大(ばくだい)な公費投入に制作された当時から批判があった。西洋風の屈強な男子像であることや、作者の北村が戦前に軍国主義の作品を多数制作していたことに異議を唱える人も少なくない。

また北村の弟子で長崎市出身の富永直樹が97年に制作した爆心地公園の「母子像」は像の形状や制作意図について異議を唱える市民が、撤去を求めて市を相手取り裁判を起こしたこともある。

このような長崎の彫刻をめぐる問題について、小田原さんが問いかけると、森さんは平和祈念像について「長崎出身者として、彫刻をやっている者として受け入れがたい」と強く否定した。その上で、今後、長崎を問い続ける自身の制作活動と並行して、北村の制作意図をあらためて読み解く計画があることも明らかにした。

一部は市民に広く受容されているとは言いがたいものの、長崎という街の祈りの深さ、メッセージの強さが彫刻作品を呼び込み、一群を形成してきたのは疑いようがない。自らも彫刻の実作者である小田原さんと森さんの2人。過去の作品群と向き合い、喚起されながら、どのような新しい創造へと向かうのだろうか。 (平原奈央子)=2月14日付西日本新聞朝刊に掲載=

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 070f2343ce

江口寿史展
EGUCHI in ASIA

2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館

Thumb mini 199fb1a74c

挂甲の武人 国宝指定50周年記念/九州国立博物館開館20周年記念/NHK放送100年/朝日新聞西部本社発刊90周年記念
特別展「はにわ」

2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
九州国立博物館

Thumb mini e6fdc72059
終了間近

連載15周年突破記念 超!弱虫ペダル展

2024/10/31(木) 〜 2024/11/25(月)
大丸福岡天神店 本館8階催場

Thumb mini cade877eef
終了間近

小田原のどかつなぎプロジェクト2024成果展
小田原のどか 近代を彫刻/超克する
—津奈木・水俣編

2024/09/07(土) 〜 2024/11/24(日)
つなぎ美術館

Thumb mini cbbf457e32

最後の浮世絵師
月岡芳年展

2024/10/26(土) 〜 2024/12/01(日)
九州芸文館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini 09b94817ac
コラム

【コラム】海に捧げた祈り 特別展「博多のみほとけ」㊤ 独自の表現に込めた思い

Thumb mini 84bd4abc0f
コラム

【コラム】対外交流と祈りの歴史 特別展「博多のみほとけ」 福岡市美術館 12月8日まで 博多湾沿岸の仏像を一堂に

Thumb mini bd0ad2c473
コラム

【コラム】夏の夜にともる物語 特別展「大灯籠絵」㊦  正月行事で奉納の大絵馬

Thumb mini ca0f629a74
コラム

【コラム】夏の夜にともる物語 特別展「大灯籠絵」㊥  雪渓作の全9点を一堂に

Thumb mini d2b73fc35c
コラム

【コラム】夏の夜にともる物語 特別展「大灯籠絵」㊤  現存する最大最古の傑作

特集記事をもっと見る