江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2020/02/21 |
公園や街角など人の目に触れる場所に置かれることが多い彫刻は、人々の目にいや応なくさらされながら半永久的にその地に残る。そのため、絵画など他の美術作品よりも公共性が問われやすい。思想性を帯びた作品が地域で議論になることもある。例えば被爆地長崎市。近年、林立する平和を願う彫刻作品の検証があらためて進んでいる。研究者の一人で彫刻家の小田原のどかさんと、同市出身の彫刻家で東京芸術大准教授の森淳一さんが1月中旬、東京都の国立新美術館で「長崎と彫刻をめぐって」と題し対談した。
同館で2月16日まで開催の「DOMANI・明日2020~傷ついた風景の向こうに」(文化庁など主催)の関連企画。同展は文化庁の海外研修経験者や芸術選奨、紫綬褒章に選ばれたアーティスト11人が参加し、身体や時空間の傷と再生をテーマに出品した。
テーマの構想のきっかけになった作品が、森さんの作品「山影」だ。黒大理石で長崎市の丘陵地をかたどった彫刻で、見る角度によって暗示的に外光を反射する。一昨年の冬、森さんは金比羅山の山頂から長崎市内を見下ろした時、「原爆の閃光(せんこう)はこの町を一瞬かたどり」、そして町が消滅したことを俯瞰(ふかん)の視点で実感したという。作品は被爆の前後を分けた一瞬をとらえている。
対談で、小田原さんは「森さんの初期作品は人間をかたどりながら肉がない外郭のイメージ。『山影』では人体を離れ風景に向かった」と指摘し、森さんが「山影」に投影した原爆の閃光の一瞬を「極薄」と表現していることに注目した。
森さんの作品で「極薄」は時と時を隔てる一瞬として、肉体と外界を隔てる膜として表象される。本展では被爆マリア像をかたどった作品や、球体につけまつげを張りめぐらせ被爆者が最後に見た光をイメージした作品も出品した。いずれも陶製で、森さんは「被爆直後の街の温度を思い、そこに何かを投げ込むことで見えてくるものがあると思った」と言う。
長崎市内には平和公園や爆心地公園、浦上天主堂の一帯だけでも約60の平和にまつわる野外彫刻が林立し、小田原さんは公共空間における彫刻のあり方を考え、長崎訪問を重ねている。中でも長崎県南島原市出身の彫刻家、北村西望が戦後復興半ばの1950年代初頭に制作した平和公園の平和祈念像は、莫大(ばくだい)な公費投入に制作された当時から批判があった。西洋風の屈強な男子像であることや、作者の北村が戦前に軍国主義の作品を多数制作していたことに異議を唱える人も少なくない。
また北村の弟子で長崎市出身の富永直樹が97年に制作した爆心地公園の「母子像」は像の形状や制作意図について異議を唱える市民が、撤去を求めて市を相手取り裁判を起こしたこともある。
このような長崎の彫刻をめぐる問題について、小田原さんが問いかけると、森さんは平和祈念像について「長崎出身者として、彫刻をやっている者として受け入れがたい」と強く否定した。その上で、今後、長崎を問い続ける自身の制作活動と並行して、北村の制作意図をあらためて読み解く計画があることも明らかにした。
一部は市民に広く受容されているとは言いがたいものの、長崎という街の祈りの深さ、メッセージの強さが彫刻作品を呼び込み、一群を形成してきたのは疑いようがない。自らも彫刻の実作者である小田原さんと森さんの2人。過去の作品群と向き合い、喚起されながら、どのような新しい創造へと向かうのだろうか。 (平原奈央子)=2月14日付西日本新聞朝刊に掲載=
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