江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2020/03/07 |
※本展は3月1日で終了しました。
韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が今年の米アカデミー賞4冠に輝いた。裕福な家庭に入り込む貧困家族の物語だが、日本映画を振り返っても常に家族はテーマの一つだった。家族の絆の解体をモチーフにした小津安二郎、すばる文学賞受賞作を原作に、団地に住む核家族の不穏な雰囲気を描き出した森田芳光の「家族ゲーム」。カンヌ国際映画祭パルムドール受賞の「万引き家族」も記憶に新しい。
果たして家族とは何だろう? 今ではその意味を深く考えずに当たり前と思いがちだが、明治中期以降に定着した比較的新しい言葉だという。広島市現代美術館の特別展「アカルイ カテイ」は、各種の芸術作品から家族というテーマを引っ張りだし、その概念を改めて問い直す試みだ。
展示では、画家、デザイナー、映像作家、写真家などジャンルもさまざまな11人の作品が並ぶ。
女性の前衛洋画の草分け桂ゆき(1913~91)の大型油彩「積んだり」(51年)は実家の庭にあったシイの木がモチーフの一つ。本展担当の竹口浩司学芸員によると、桂は厳格で封建的な家庭に育った。作品は、実家とおぼしき建物、家財などがランダムに積み重なり、上部にシイの木が配置される。キャンバスを裏側から裂くような木は、家を解体するかのようである。
対照的に福岡生まれの画家、江上茂雄(1912~2014)の描く家には優しさが横溢(おういつ)する。若年期の江上は貧しい境遇にいた。それでもクレヨン、水彩による風景は居心地の良さがにじみ出ている。
竹口学芸員は約4年前まで福岡県立美術館に勤務。生前の江上と親交があり、孫に宛てた絵手紙を見たという。
「言葉遣いも丁寧。家族を自立した存在として見ているのが印象的だった」。家父長制の色濃かった時代においても、江上のような画一的でない家族の捉え方があった。
家族という言葉はポジティブな意味がついて回る。現実には、そればかりではないにもかかわらずだ。
1980年生まれの小西紀行の人物画は、その認識を問い直すという意味で印象的だった。遠目から見ると家族の集合、だんらんの構図に見えるが、体全体が太いストロークで塗りつぶされ、表情や性別が捉えられなくなっている。個や感情が消され抽象化された絵は、家族という凝り固まったイメージを揺るがす。
その隣には美術家、和田千秋=福岡市=の絵画、インスタレーションがある。和田は87年、脳に障がいがある長男愛語の誕生を機に活動を休止。再開後「障碍(しょうがい)の美術」シリーズに取り組んでいる。作品の親子は穏やかでほほ笑ましい表情。ただ、そこには苦悩もあったはずで、それを通過したからこその家族であり作品である。
最後は写真家、植本一子の作品で締めくくられる。並べられたスナップ写真は、18年に逝去した夫でラッパーのECDと2人の娘だけではない。手を差し伸べてくれる友人、新しいパートナーも同列に展示することで浮き上がるのは「新しい家族の形」だった。
映画「万引き家族」で描かれたのは血縁ではなく犯罪でつながる一家。他方、テレビ番組「ファミリーヒストリー」の人気を見るにつけ拡大家族だけがトレンドでもない。
家族とは?
その答えを見つけようと特別展を回ったが、見終えて気付いたのは規定しようとすると逃げていくような「家族の姿」だった。家族とは凝り固まった概念ではなく流動的である。だから小津は同じような家族映画を微妙に内容をずらしていきながら繰り返し撮り続け、なお描ききれなかったのかもしれない。
時に社会と合わせ、時に社会からはみ出すように伸び縮みする家族の概念。われわれは常に「新しい家族の形」を模索し、実践しているのだろう。
=敬称略(小川祥平)=2月21日付西日本新聞朝刊に掲載=
「アカルイ カテイ」は3月1日まで、広島市現代美術館=082(264)1121。ほかにも森正洋、潮田登久子ら九州にゆかりある作家を取り上げている。
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
九州国立博物館
2024/10/31(木) 〜 2024/11/25(月)
大丸福岡天神店 本館8階催場
2024/09/07(土) 〜 2024/11/24(日)
つなぎ美術館
2024/10/26(土) 〜 2024/12/01(日)
九州芸文館