オーギカナエ展
永遠はなくてもつなぐことはできる smile ∞ torus
2022/03/05(土) 〜 2022/03/26(土)
12:00 〜 19:00
EUREKA エウレカ
木下貴子 2022/11/08 |
会場に一歩ふみ入った刹那、春の陽光に包まれたような感じを覚えた。次々と目に入り込んでくる色とりどりのパステルカラー、やわらかみのある円輪に、感覚が共鳴していく。冬を乗り越え、土から這い出でて春の光を浴びた虫はきっとこんな気分なのかなと、つい妄想してしまった。「エウレカ」(福岡市中央区大手門)で開かれていたオーギカナエさんの個展「永遠はなくてもつなぐことはできるsmile∞torus」では、とても気持ちのよい温かい空気が溢れていた。
現代美術作家であるオーギさんは、現在、福岡県久留米市を拠点に、サイトスペシフィックな作品、ワークショップ、プロジェクトなどを手がけている。福岡はもちろん、活躍の場は全国、そして国外にもおよぶ。
オーギさんは美術大学卒業後、しばらく東京を拠点としていた。同じく現代美術作家である牛嶋均さんとの結婚を機に、久留米市に移ったのが1996年のこと。「そのころは、個展しかやりたくないという人でした」と当時のオーギさんの考えを聞いて、とても驚いた。オーギさんは、子どもから大人までいろいろな人を巻き込みながら作品制作やワークショップを行う作家として定評があるからだ。オーギさんのアート表現に「人との交流」「人と楽しむ」のイメージは欠かせない。
「美術をやるって強く思っていた東京時代は、自分一人の世界を出すためにも絶対グループ展はやりたくないし、個展が最高って思っていたんですよね」。だが、福岡に移り結婚し、子どもも生まれ、どんどん関わる人が増え環境が変わっていくにつれ、グループ展やワークショップなど発表や表現の幅が広がっていった。「そうするうちにみんなでやることに対して、『あれ?なんか面白いな』って思うようになったんです。予測不可能な中にものすごく可能性を感じたり、自分では分からなかった面白さがあったり。それに、人からダメ出しされることがあっても、それをふまえてもう一回考え直してやってみると、最初に自分が思っていたものよりも良くなった経験もあったりして。人と一緒にやることが面白いなって思い始め、今に至ります」と心境の変化を振り返る。
以来、その都度、状況に応じながら柔軟に、発表の仕方や作品の表現を変えてきた。「作家としてのあり方にもいろんな方向がありますよね。制作が大変な部分もありましたが、結婚することも子どもが欲しいと思って決めたのは自分だし、それも含めて自分の作品に関わってくるんだから何か道があるんだろうなって思ってて。形あるものが作れなくても、子どもが何かしたら面白いな、これって何か作品になるんじゃないかなっていうふうに、作品を作っているのと同じ気持ちで毎日いろいろ考えていました」。お子さん2人がまだ小さい頃には、例えば、溶かしたチョコレートを材料にチョコ彫刻や似顔絵チョコを作る親子で楽しめるワークショップ「chocochip sisters」(1999・2000年)、同じく子育て中の母親にインタビューした作品《Mathers Talking》(2000年)など、日常から派生した作品を生み出していった。
お子さんが2人とも成人し、育児が終わっても、そのスタイルは継続している。「人と一緒にやっているうちに、もともと自分は人が喜ぶということがすごく好きだったってことを思い出したんですよね。人が喜んでいるのを見るのが、私の喜びみたいな。そういう意味でも、ワークショップは私にとても適しているし、これからもみなさんと一緒になって、何か探せていけたらなと思っています」。
近年はさらに活動を広げ、より柔軟に。牛嶋さんとユニット組んだ「YAPPOTUKA(ヤポッカ)」、子ども2人も一緒に家族全員で表現活動を行う「ウシジマケ」なども展開している。
(後編へ続く)
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