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日々の暮らしの中にある違和感をユーモアかつシュールに描き、刺繍で温かみを。現代美術作家、難波瑞穂さん。(後編)【インタビュー】

2024/05/21 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 布に刷った銅版画に刺繍で彩色していく独特のスタイルで作品を制作する難波瑞穂さん。後編では、その作品に込める思いや今後の展開などについて語ってもらった。
前編はこちらからどうぞ。

 

 ここ数年、グループ展や個展など精力的に作品を発表している難波さんだが、制作がほぼできなかった時期が7〜8年ほどあった。長男が誕生した3年後に、次男が誕生。「次男に障がいがあり療育施設に通うことになったので、仕事を辞め、制作もほとんどやっていませんでした」。三男の誕生後しばらくして、次男と三男を保育園に預けられるようになり、徐々に制作を再開していった。そして2018年に「第3回星乃珈琲店絵画コンテスト」に応募した作品で、グランプリを受賞した。

「第3回星乃珈琲店絵画コンテスト」でグランプリを受賞した《カフェ》2018年
(画像は難波さんからの提供)

 「『ギャラリーおいし』にいた牧野身紀さん(現『エウレカ』オーナー)が、私が制作を休んでいた間もずっと気にかけてくれていて。それでグランプリを受賞したことを牧野さんに報告したらとても喜んでくれ、グループ展や個展にも声をかけてくださるようになったんです」。それまで福岡での発表の機会はあまりなかったが、2023年6月に「エウレカ」(中央区大手門)、「吾輩堂」(中央区六本松)の共同開催で個展を行ったことを機に、難波さんの名前や作品は福岡のアートファンの間に広まっていった。

エウレカでの個展「不完全燃焼の日々」会場風景より
(写真は難波さんからの提供

 「吾輩堂」では猫をテーマにした新作を発表、一方、「エウレカ」では難波さんが日頃から感じている思いをテーマに作り続けてきた作品が並んだ。「今は子育て真っ最中で、具体的には長男が中学で部活動をやっています。そんな中で、ママ友とかPTAとかいろいろな関係性がありますよね? そこでの違和感や葛藤、あるいは怒りや不満とか、自分も含め『お母さん』が日々感じているモヤッとすることや不条理なことが、自然とテーマになることが多いです」。また、次男が幼少期の頃に難波さんが抱いていた不安や、感じていた周囲からの視線など、時を経て改めて制作した作品もある。

エウレカでの個展で展示した作品。左から《ワタシとキミ》2019年、《家族》2022年
(画像は難波さんからの提供)

 ゆるやかなタッチの版画に、色とりどりの刺繍が施された作品は一見、可愛らしくファンタジー。だがよくよく見ると、ユーモアがありまたシュールさも潜んでいたりする。たとえば上の《家族》では(おそらくお父さんである)ウサギは、家族に身体を委ねられ、また足が鎖でつながれていて、作品から「重圧」のようなものが見えてくる。「多くの人が表面的に明るく見せながら、実は心に弱さや不安、あるいは人間くさい部分をもっている。私はそこに味わいや面白さを感じていて、作品で表現しています。私の作品から同じような気持ちを感じてくれる人がいると嬉しいし、また作品を通して語り合えるものがあるんじゃないかなと思っています」。

 三人の子育てとの両立の大変さは想像に難くない。「でも今は、子どもたちが学校に行っている時間を制作にあてられるし、刺繍の段階に入れば隙間時間でも制作できます。そこも刺繍のメリットですね」と難波さん。同じく作家であるご主人の理解も大きいとも話す。2023年からは新しいチャレンジも始まった。「大きいサイズの作品も作ってみたくて」と布に刷った大きな木版画に、太い毛糸で刺繍をしたりミシンでステッチしたりする作品も制作。また、手ぬぐいやポストカード、シールなどのグッズ展開も始めたり、友人の焼き菓子のお店「R.M.FINANCIER(アールエムフィナンシェ)」(北九州市小倉北区)のクッキー缶のパッケージなども手がけたりしている。

制作中の作品より。木版画をベースにした大きな作品

 また今後は、これまで表現してきたような日々の暮らしの中で生まれた違和感とはまた違う、難波さん曰く「日本の原風景なのかなんなのか、自分でもよくわからないけど心にある風景」をテーマにした作品を膨らましていきたいと最後に語ってくれた。

難波さんが言う「よくわからないけど心にある風景」を表現した作品の一つ
《懐かしい匂い》2003年
(画像は難波さんからの提供)

 

【インフォメーション】
山口大学医学部附属病院改修に伴うアートプロ ジェクトのために、金子みすゞの童謡詩をテーマ にしたアート作品を制作し納品した。今年の秋に、信覚寺(福岡県朝倉郡)でのグループ店に参加する予定。また、難波瑞穂さんの作品やアートグッズは、ARTNE STORE ONLINEにて購入できます。

難波瑞穂の作品購入はコチラ

■プロフィール

難波瑞穂(なんばみずほ)
福岡県大野城市出身、現在、福岡市在住。1999年山口大学大学院美術教育専修修了。2001年にスペインに渡り、ロータリー奨学生としてバレンシア工科大学で1年間学んだ後、マドリッドのコンブルテンセ大学で学ぶ。2010年より銅版画に刺繍を施した独特の表現スタイルで作品を制作している。主な個展に2023年「不完全燃焼の日々」(エウレカ)、「猫の日々」(吾輩堂)など。主な受賞歴に2018年「第3回星乃珈琲店絵画コンテスト」グランプリ受賞、第75回 山口県展優秀賞受賞など。

公式インスタグラム
https://www.instagram.com/mizuho_works/

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