九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  インタビュー ›  熊本に向けて復興を願う「焼物しかできない」美術館のエール。【インタビュー】九州陶磁文化館企画展

熊本に向けて復興を願う「焼物しかできない」美術館のエール。【インタビュー】九州陶磁文化館企画展

Thumb micro 6e69b4f50a
アルトネ編集部
2017/10/27
LINE はてなブックマーク facebook Twitter

佐賀県立九州陶磁文化館で「熊本地震復興祈念 特別企画展 熊本のやきもの-近世から現代まで、火の国の陶磁文化-」が開催されています(~11/26)。2016年4月、熊本・大分を中心に九州で発生した地震から1年半が経過しました。復興を祈る本展への思いについて,担当学芸員の德永貞紹さんに伺いました。聞き手は本展レポート記事と同じく福岡市中央区赤坂のギャラリー「WHITE SPACE ONE」ディレクター齋藤一樹さんです。(アルトネ編集部)

--佐賀県立九州陶磁文化館で開催中の「熊本のやきもの」展を訪れ、熊本全土それぞれのエリアで、個性的な焼物があることがわかりました。さらに、本展企画を担当された同館の学芸員・德永貞紹さんにお話を聞くことができました。

德永:熊本ってこんなにいろいろな焼物があるんだということを知ってもらいたいという願いがあります。多くの方は熊本のやきものについてあまりご存知ないのですが、こんなにバラエティーに富んだやきものがあるということを熊本の方にも他県の方にも知ってもらいたい。九州の中の多様性、熊本の中の多様性を感じてもらいたい。現代作家の出品作品は、美術館で展示するようなものですが、作家さんの工房に行っていただくと普段使いのものもあるので、自分とフィーリングの合う作家さんを見つけて、熊本各地を訪ねてもらいたいです。

佐賀県立九州陶磁文化館学芸員・德永貞紹さん

--九州陶磁文化館では常設展以外にも、特別企画展を1つおこなわれています。
今回の「熊本のやきもの」展の企画に関しては、熊本の力になりたい、励ましたいという思いから、昨年から始動したのですが、地震の被害のことがあり、実施するかどうかも迷ったとのこと。德永さんご自身も学生時代を熊本で過ごされたので、思い入れもあったそうです。ただ昨年は有田の400年祭の大きな展覧会もあり、なかなか熊本に出向いてお手伝いできなかったので、そのぶん熊本への応援の気持ちがさらに強くなったそうですね。

德永:うちができることは焼物しかないが、この展覧会が熊本のためになるのか…という自問もありました。熊本の陶芸の関係者にご相談したら、逆にやってほしいという励ましをいただき、企画展として開催することになりました。本格的な動き出しは今年の4月、地震から1年経てからでした。被災された所蔵者のこともあり、表立って動くことを遠慮していました。

--これを聞いた私は凄いスピード感だなと思っていましたが、九州の焼物のあらゆる知見・ノウハウの蓄積がある九州陶磁文化館だからこそできたことではないかと思っています。

德永:本当は熊本でもこの展覧会をやれたらよかったという思いもあります。こういった災害が起こった時は、まずは人命救助・ライフラインの復旧、そしてその次に復興ですが、地域に対する愛着誇りが支えの1つとなります。そして、その他の県の方にも時間が経っていく中で、熊本にもう一度注目してもらえたらと希望します。あらためて県内県外の方に熊本の良さを知ってもらえたらと思っています。

--德永さんのメッセージからは、一人の学芸員の方の強い思いから、展覧会実施にいたったことを感じ、そして熊本を知るため・応援するための1つの選択肢として「熊本のやきもの」が注目されることに、私自身、必然性を感じることができました。

徳永さんの言葉を思い出し、今回の展示で気になった作品「泥のかたち」を制作された山本幸一さんの窯元「山幸窯」を訪ねることにしました。熊本城から山道に抜けていく道をまっすぐ進んでいくと、山本さんが開いている陶房がオープンしていました。周りは新緑に囲まれた隠れ家のような佇まいがありました。普段使いの器や茶器花器も販売されています。山本さんは、素材である土に藁や籾殻を混ぜることで、様々な変化を見せてくれる土の表情を楽しみながら作品を作られていました。そしてなにより熊本のこの地を愛されていることを感じました。

皆様も是非、九州陶磁文化館「熊本のやきもの」展と熊本の現代陶芸作家の窯元に足を運んでみてはいかがでしょうか。

熊本中心街から車で20分ほど「山幸窯」に辿り着く
山本幸一さんの「山幸窯」の工房は作業場と展示場が一体となっている
工房で見た「泥のかたち」の初期作品(1996年制作)

展覧会関連イベント
今回解説していただいた德永さんや九州陶磁文化館学芸員さんと回る、ギャラリートークも毎週開催されています。合わせてお楽しみください。

■開催記念講演会「肥後・熊本の陶磁史をさぐる」 (参加無料)
日時:2017年11月4日(土)13:00~16:00  
会場:九州陶磁文化館 講堂 定員150名
肥後・熊本の陶磁史について、熊本からお招きする5名の講師と本館名誉顧問および展覧会担当学芸員が、各地域の多様な特徴や歴史的意義を語ります。

1) 德永貞紹(佐賀県立九州陶磁文化館)
「熊本のやきもの-火の国の陶磁文化-」

2) 福原 透(八代市立博物館)
「肥後の近世陶磁史と豊前・上野焼の陶工-八代、小代と知られざる二窯、山鹿と牧崎」

3) 美濃口雅朗(熊本市文化振興課)
「熊本城・城下周辺における肥後産陶磁の使用」

4) 岡本真也(熊本県教育庁文化課)
「人吉・球磨の近世陶磁器について」

5) 中山 圭(天草市観光文化部)
「天草陶磁器生産技術の系譜-肥前から天草へ-」

6) 歳川喜三生(天草市立本渡歴史民俗資料館)
「天草の陶器について-水の平焼を中心として-」

7) 大橋康二(佐賀県立九州陶磁文化館名誉顧問)
「江戸時代、天草高浜焼の主な製品の変遷-在銘品を中心として-」

■ギャラリートーク(参加無料。申込み不要。ただし観覧料が必要です。)
毎週土曜日の14:00から1時間程度、学芸員が見どころを解説するギャラリートークをおこないます。※11月4日(土)は記念講演会開催のため、11月3日(祝・金)に実施。

■ロビーコンサート(鑑賞無料)
熊本県内で活動中の「ティアラ」によるロビーコンサートをおこないます。フルートとヴァイオリンデュオによる演奏で被災地の復興を願って開催。

出演:「アンサンブル ティアラ」
日時:2017年10月29日(日)
1回目 11:30~12:00/2回目 14:00~14:30

 

齋藤 一樹(さいとう・かずき)1982年京都府生まれ。2008年「⻩金町バザール」の立ち上げスタッフ。2009年福岡に移住。現在は「WHITE SPACE ONE」で現代美術の企画ギャ ラリーを運営。また「TAKEO MABOROSHI TERMINAL(佐賀県武雄市)」「UMINAKA TAIYOSO AIR(福岡市東区大岳)」のディレクターとして、既存施設や空き店舗で展覧会を行うアートイベントの企画・運営もおこなう。なお今年度には、武雄の窯元・工房のサポートを受けて、現代美術作家が陶磁を素材とした作品制作を行うレジデンス企画も手がけている。

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 070f2343ce

江口寿史展
EGUCHI in ASIA

2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館

Thumb mini 199fb1a74c

挂甲の武人 国宝指定50周年記念/九州国立博物館開館20周年記念/NHK放送100年/朝日新聞西部本社発刊90周年記念
特別展「はにわ」

2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
九州国立博物館

Thumb mini e6fdc72059
終了間近

連載15周年突破記念 超!弱虫ペダル展

2024/10/31(木) 〜 2024/11/25(月)
大丸福岡天神店 本館8階催場

Thumb mini cade877eef
終了間近

小田原のどかつなぎプロジェクト2024成果展
小田原のどか 近代を彫刻/超克する
—津奈木・水俣編

2024/09/07(土) 〜 2024/11/24(日)
つなぎ美術館

Thumb mini cbbf457e32

最後の浮世絵師
月岡芳年展

2024/10/26(土) 〜 2024/12/01(日)
九州芸文館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini a5201ff46d
レポート

バラエティーに富んだ「熊本のやきもの」の系譜|九州陶磁文化館 特別企画展【レポート】

Thumb mini a5201ff46d
レポート

バラエティーに富んだ「熊本のやきもの」の系譜|九州陶磁文化館 特別企画展【レポート】

Thumb mini 101b4dee11
インタビュー

瞬間、全力疾走の積み重ねがここにある 作者の渡辺航さんインタビュー!「超!弱虫ペダル展」

Thumb mini 22771fb22c
インタビュー

「おいでよ!夏の美術館vol.1 エルマーのぼうけん展」 企画者が語る魅力/繊細な原画 あふれる想像力 福岡アジア美術館【インタビュー】

Thumb mini 574a92f3d0
インタビュー

日々の暮らしの中にある違和感をユーモアかつシュールに描き、刺繍で温かみを。現代美術作家、難波瑞穂さん。(後編)【インタビュー】

特集記事をもっと見る