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しりあがり寿さんが語る!〝インスタ映え〟する広重の絵の魅力とは?【インタビュー】

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伊勢田美保
2018/02/02
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九州芸文館で2/4(日)まで、「生誕220年 広重展」が開催されている。江戸後期の浮世絵師・歌川広重の代表作「東海道五拾三次」シリーズを始めとする版画作品約150点を一挙紹介するものだ。
本展のキャッチコピー・イラストを手がけたのが、人気漫画家・しりあがり寿さん。十返舎一九の滑稽本「東海道中膝栗毛」を題材にした漫画『真夜中の弥次さん喜多さん』がヒットし、続編の『弥次喜多in DEEP』では第5回手塚治虫文化賞漫画優秀賞を受賞、のちに映画化されるなど、文学的・アート的にも高い評価を受けた。公私ともに浮世絵好きというしりあがり寿さんならではの視点で、広重の絵の魅力や本展の楽しみ方を聞いた。

——十返舎一九の「東海道中膝栗毛」をテーマに漫画を描かれていますが、広重の作品にも共通する魅力は?

しりあがり寿:一言で言えば「街道の魅力」ですね。街道は、一つのところで何かが起こっても次の宿場に行けば、もうどうでもいいんですよ。引きずらない。弥次さん喜多さんシリーズは、人を殺して江戸を逃げ、お伊勢参りに行く人たちのストーリーだから、そういう意味では相当ヤバい。だけど前の宿屋であったことは忘れて「次行こう!」みたいな気軽さと、次は何が起こるんだろう?というドキドキがある。広重の旅のテーマは〝観光〟だから、テーマが重くないですよね。お伊勢さんに行くっていう目的は軽くて、かつプロセスを楽しめる。昨日のことは忘れちゃえ!みたいな気軽な感じに惹かれます。

本展図録を手に広重を語る、しりあがり寿さん

——自身の広重作品との接点は?

しりあがり寿:静岡出身なので、もともと東海道には馴染みがありました。あと切手の収集が好きで、「東海道五十三次」の切手も集めていたので、広重には昔から憧れていましたね。たとえば葛飾北斎と歌川広重を比べてみると、北斎の作品は「凄み」があるのに対して、広重の作品には「可愛げ」がある。ついその場所に行ってみたくなるような楽しい雰囲気があって、いいですね。

——本展のキャッチコピー「広重の東海道ってのはインスタ映えするじゃあねぇか!」の意図は。

しりあがり寿:当時広重がどういう気持ちで描いたかというと、きっと「こうしたら絵になる」とか、「こうしたらかっこいい、きれい」「みんな来てくれるんじゃないか」ということだったと思うんです。それってインスタに投稿する人と考え方が同じですよね。だからインスタ大先輩だなと思った。インスタでもフィルターとか、色を変えたりしますが、広重の絵も誇張して色味を変えたりしている。箱根(※)も、とてもいいけど、実際こんな色じゃないし。どこか通じるものがありますよね。だから、みんな広重の絵を見て、東海道を歩けばいいんじゃないかなって思いますよ。

(※)東海道五拾三次之内「箱根 湖水図」(保永堂版東海道)

——しりあがり寿さんならではの絵の鑑賞法があれば教えてください。

しりあがり寿:絵のうまさにやられちゃって「俺なんかダメだ」って思いだすから、あんまり近くで見ないですね。それよりも、全体から醸し出されるものを感じるようにしてる。人間ってカオスから秩序を立ち上げる生き物でしょう。たとえば、宇宙の星が動いていたらなんであんな風に動いているんだろう?と思い、そのうちガリレオとかコペルニクスとかそういう人たちが秩序を作っていく。機械も都市も、全部そうだと思います。絵を描くにしてもそう。ただの緑と茶色の絵の具だって、形を描けば木になる。デタラメなカオスから「何かこれいいな」が立ち上がってくる瞬間があって、絵が完成する。作者の思いと見る人がどう考えるかはまた別ですけど、絵にはそういう面白さがあります。

——浮世絵のすごさとは?

しりあがり寿:漫画と浮世絵、どちらも線画の作品ですが、浮世絵はこの時代でここまで発達しているというのがすごいですよね。線だけでこれだけ質感や動きを表現しているのですから。東洋の線画の歴史の中で、行くところまで行っている気がします。後に、日本にも西洋のペインティングやドローイング画法が入ってきたけれど、今また漫画がこれだけ盛んになったというのは、おそらく「血」が忘れられなかったのかな。浮世絵から漫画につながる、線画の歴史も感じますよね。

当時の浮世絵産業のレベルの高さもすごく感じます。彫って擦る技術は相当なもの。芸術家というより、もはや職人さんですよね。版画ならではの色合いやにじみ、重なったところの風合いはとても美しいし、技に対する畏敬の念がわきます。

 

——広重のお気に入りの絵をあげてください。

しりあがり寿:まずは日本橋。「ザ・江戸!」って感じ。橋も櫓もあるし、大名行列もみんな揃っている。これ一枚見れば江戸がわかる気持ちになる、サービス満点の絵だと思います。だって普通、行商の人がいるところに都合よく大名行列来ないよね(笑)鑑賞者が見たいものを、広重が盛り込んで、サービスしてくれているんですよね。

東海道五拾三次之内「日本橋 朝の景」(保永堂版東海道)


蒲原も好き。蒲原に雪なんて降らないだろって思うんだけど。このグラデーション表現はすごいよね。

東海道五拾三次之内「蒲原 夜之雪」(保永堂版東海道)

 

鞠子もいい。この茶屋は未だに存在してて、行ったことがあるんですが、とろろ汁が美味しいんですよ。

東海道五拾三次之内「鞠子 名物茶店」(保永堂版東海道)

——もし広重の時代にワープしたとしたら?

しりあがり寿:広重に「吹き出し」を教えてあげますね。吹き出しを入れて登場人物に何か言わせたら、もっと面白くなると思うよって。漫画はこういう一つのコマだったものに吹き出しが入り、それが連続して今の形になった。吹き出しがあったら、いいとか悪いじゃなくて「ウケる」かなと。

ただ一方で、サービスしすぎると見る方は想像の範囲が狭まる。ほのめかしたり、想像の余地を残してあげるのは、それはそれで素晴らしいですよね。

 

——最後に、本展をどのように楽しむといいかメッセージをください。

しりあがり寿:気軽に見に来ればいいと思います。作品は確かにすごいんだけど、ありがたがって尊敬するだけだと、そこで終わっちゃうから。せっかく日本に生まれて日本の資産があるんだから、そこからまた何か新しいものを生み出せばいいんです。

過去の日本人はこんなにすごいことをしたって見方も大切だけど、そこにとどまるんじゃなくて、大先輩がこんなものを残してくれたけど、「やるじゃん!でも俺がその上をいくぜ」くらいに思った方がいいと思う。浮世絵はそもそも町人文化ですし、みなさんも町人でしょう?(笑)一枚の絵からいろんな想像を巡らせたり、自分なりに吹き出しを考えてみたり。大いに笑いに来たらいいと思いますよ。

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