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御年85歳にして衰えぬ創作意欲。藤子不二雄Ⓐ氏に「藤子不二雄Ⓐ展」の見どころと、そのパワーの源を聞いた【インタビュー】

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大迫章代
2019/08/10
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西鉄ホールで8月18日(日)まで開催されている「藤子不二雄Ⓐ展 ーⒶの変コレクションー」。展覧会を見ると、藤子不二雄Ⓐ氏の漫画家としての視点の広さ、その懐の大きさにあらためて驚く。(内覧会のレポートはこちら
今回、アルトネはラッキーにも、内覧会に合わせて来福してくれた日本漫画界のレジェンド、藤子不二雄Ⓐ氏に直接話を聞くことができた。御年85歳とは思えない快活でパワーみなぎる藤子Ⓐ氏に、その発想の源と、元気の秘訣を聞いた。

ご本人から“ドーン!”ポーズいただきました!!


Q 東京(六本木ヒルズ)に次いで、福岡が2会場目になりますが、ご自身の作品がこういった形で展示される感想を教えてください。

それはもうむちゃくちゃうれしいですね。通常、漫画の展覧会というと、原画を展示することが多いのですが、ご存知の通り、僕はいろんなジャンルの作品を描いているもので、それに合わせて、自由な発想で誰もが楽しめるような、今までにない展覧会にしてほしいと打合せの時に話したのです。その後、細かい指示は一切していないのですが、スタッフが自主的に考えてくれて。おかげで、「この作品をこんなふうに見せてくれるのか」と、僕自身エンジョイできるすてきな内容になっています。また、今の子供たちは僕の作品を知らない人もいるかもしれませんが、この展示を見て、逆に僕の作品に興味を持ってもらえるとうれしいですね。

「藤子不二雄Ⓐ展 ーⒶの変コレクションー」。福岡会場(西鉄ホール)のエントランス


Q 九州へ来る機会はありますか。

九州は好きでよく来ていますよ。僕は富山の雪国出身で、子供のころは家にこもって漫画ばかり描いている内向的なタイプだったのですが、福岡は開放的で、外交的な人も多いので、そういうところが好きですね。

Q 現在、執筆活動は?

今もかすかではりますが、続けています。ここ数年体調を崩して休みがちではあったのですが、最近は嘘のように体調も良くなって、みんなから“人造人間”なんて呼ばれています。今85歳ですが、いまだに週に2回はゴルフに行っていますよ。漫画家は、頭も重要ですが、結局体力が一番ですから。

ご本人のゴルフ好きから生まれたスポーツ漫画の傑作「プロゴルファー猿」。展覧会場より


Q 漫画家を志したきっかけは?

僕は、寺の息子として生まれたので、もし子供のころ父親が亡くなっていなかったら、今頃、住職として寺を継いでいました。ですが、父が亡くなり、高岡に引っ越したおかげで、藤本くん(「ドラえもん」の原作者:藤子・F・不二雄氏)と出会い、漫画家の道を歩むことになりました。藤本くんは本当に才能のある人で、まじめで、僕と違って全然遊びをやらない人物でした。だからこそ、いくつになっても「ドラえもん」のような純粋な漫画を描けたのだと思います。一方、僕は20過ぎていろんな遊びを覚えたもので、そのまま子供漫画を描き続けるのが難しくなってきた(笑)。それで「笑ゥせぇるすまん」のような青年漫画に転向したのですが、それがうまく時代の流れに同調していたのか、おかげで今の自分があるのだと思います。

トリックアートが仕込まれた「笑ゥせぇるすまん」の大型漫画パネル。展覧会場より


Q 創作のヒントに映画をよく観るとお聞きしていますが。

映画は好きでよく観ます。最近も、韓国映画の「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」を見たのですが面白かったですよ。あとは、テレ東の昼間に、映画館で公開されなかったようなB級映画をよく放送しているのですが、たまに意外な拾いものがあるので、見ていてワクワクします。そういう作品を見ると、次はこんな話を描きたいなという刺激にもなります。映画に限らず、そんな外部から刺激や、人間への興味が、僕にとっては漫画創作の源になっています。

Q 今、描きたいテーマなどはありますか?

公園などに行くと、会社を引退して、親しい友だちも少なく、元気のなさそうな年配の人をたくさん見かけます。彼らは戦後の日本を作り上げてきた功労者たち、にもかかわらずさびしい老年をおくっているのは、非常に悲しいことだとおもいます。だから、僕自身も高齢ではありますが、漫画を描く体力が残っていれば、ぜひシニア世代の人が元気づけられるような漫画を描きたいですね。実はもう、タイトルもキャラクターも考えてあるんですよ。

Q 「明日は日曜日、そしてまた明後日も……」の短編映像を見て、50年も前に“引きこもり”というテーマを描いていたのに驚きました。

当時は、まだ“ニート”や“引きこもり”という言葉もなく、社会的にまったく問題にされていなかった時代でしたが、まわりからそういう話を聞いたことがあって、描いた作品です。“いじめ”をテーマにした「魔太郎がくる!!」も、自分がいじめられっこだった過去の経験をもとに書いたのですが、その1年半後に、“いじめ”が社会問題化しました。なんだか僕には、ちょっと時代より先走ってしまう傾向があるみたいです(笑)。

Q 故 藤子・F・不二雄氏との関係について

藤本くん(藤子・F・不二雄)とは、もともと手塚治虫先生の大ファンで、気が合ったこともあり、50年間いっしょにやっていました。今もそうですが、家も隣同士で、ケンカすることもなくずっと仲は良かったですね。最初のころは、絵もまったく同じだったので、一緒にアイデアを出し合い、キャラクターやコマを分担して1つの作品を書いていました。しばらくするとそれぞれの個性が強くなってきたので、それぞれに自分の作品を描いては藤子不二雄という共通のペンネームで発表していました。とはいえ、ファンはどちらがどの作品を書いているか分かっていて、藤本くんは“白い藤子”、僕は “黒い藤子”と呼ばれていましたね。1987年に藤本くんの提案でコンビを解消することになりましたが、今思えば、後半は別々に活動しようと決断した、藤本くんの考えは正しかったと思うし、感謝しています。それぞれのカラーを認め合っていたので、相手の批判とか漫画談義なんて一度もしたことがなかったですね。

Q 漫画は今世界的に認められるアートの1ジャンルですが、この展覧会をどのように楽しんでほしいですか。

今、日本の漫画は世界でも一番で、世界中から日本に漫画を勉強しに来る人も多くなっています。若い人の作品を見ても、「こんなすごい漫画、自分には描けないな」と感心するし、その進化は喜ばしい限りです。ですから、今流行の若い漫画家と張り合うつもりはありませんが、僕自身は、手塚治虫先生に憧れて、戦後の日本漫画の初期から漫画を描き始め、これまで続けてこられたことがプライドというか、非常に幸せなことだと思っています。僕の漫画を知らない人でも楽しめる内容になっていますので、ぜひ展覧会を見にお越しください。

とっても気さくで、元気はつらつの藤子不二雄Ⓐ先生

「水木しげる先生亡きあとの日本漫画界では、自分が最長老。それが唯一の自慢」とユーモアたっぷりの藤子不二雄Ⓐ先生。新人時代の失敗談など、いろいろな話を茶目っ気たっぷりに語ってくれた。先生、新作が読めるのを楽しみにしています!


画像はすべて、ⓒ藤子スタジオ。


藤子不二雄Ⓐ氏プロフィール
1934年富山県氷見市生まれ、85歳。1951年より漫画制作を始める。
主な著作は、『忍者ハットリくん』、『怪物くん』、『プロゴルファー猿』、『笑ゥせぇるすまん』など。
1990年自作マンガをもとに映画「少年時代」を製作、日本アカデミー賞他多数受賞。
2005年文部科学大臣賞受賞2008年旭日小綬章受賞。

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