江口寿史展
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2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
アルトネ編集部 2017/09/01 |
三菱地所アルティアム(イムズ8階)で開催される九州・沖縄とその周辺地域を拠点とする作家を紹介する展覧会「Local Prospects 3」の公募審査結果が発表された。
展覧会シリーズ「Local Prospects 」は2015年から開催され、2016年よりさらに門戸の開かれた展覧会とするべく、グループ展の中の1枠が公募されていた。絵画、写真、映像、インスタレーションなど、多彩な表現による32件のエントリーがあり、厳正なる審査の結果、1982年宮崎県生まれ・福岡県在住の三輪恭子の展示プランが選出された。審査結果、審査員による講評は、以下の通り。丁寧な講評からは、本公募に限らない、ポートフォリオ審査の参考になるポイントが伝わる。是非ご一読いただきたい。公式サイトはこちら。
●審査概要
募集期間:2017年6月1日(木)〜8月14日(月)
応募総数:32件
入選者:三輪恭子(1982年宮崎県生まれ、福岡県在住)
審査員:竹口浩司(広島市現代美術館 学芸担当課長)、阿佐美淑子(三菱一号館美術館 学芸員)、宮本初音・木下貴子(Fukuoka Art Tips)、鈴田ふくみ・安田由佳子(三菱地所アルティアム)
●審査員コメント
竹口浩司(広島市現代美術館 学芸担当課長)
審査にあたっては次の3点を評価対象とした。1)テーマにそったコンセプトが適切に立てられているか、2)丁寧なプレゼンテーションができているか、3)「実際に見てみたい」と思える作品かどうか。ファイル審査である以上これらが総合的に判定されるわけだから、応募者はまずそのことを念頭に置いて書類を作成してほしい。とはいえ、例外がないわけではない。作品が圧倒的な魅力を放っていれば満場一致で決まることもある。しかし、今回に限ってはそういうケースがなかったと最初に伝えておくことにする。
そのなかで採用が決まった三輪恭子さんのプランは、テーマを自分なりに咀嚼して、制作の動機へとうまく引き寄せていた。近年取り組んでいるドローイングのシリーズはますます深く豊かなものとなり、切実な表現へと高められている。ただし内容的に詰め込みすぎで、かえって作品の魅力やコンセプトの可能性を減じてしまっているようにも思えた。作家自身の「原初の感覚」を伝えようとするだけでなく、鑑賞者のなかにどうやって「原初の感覚」を呼び覚ますのか。そこを熟考して展示に臨んでほしいし、展覧会オープンの瞬間を心待ちにしている。
また個人的には、「彫刻(史)」に対する果敢な挑戦を投げかける近藤祐史さんのオリジナリティと、鑑賞者を虚実の狭間に巻き込もうとする浦川大志さんのパワフルさにも惹かれた。
阿佐美淑子(三菱一号館美術館 学芸員)
九州・沖縄を基盤とした創造力を、全国へ、世界へと展開し、展望しようという「Local Prospects」の二回目の公募テーマは「原初の感覚」。大自然を皮膚感覚で捉えたような写真を撮る木下由貴、糸や布などの繊維を使い、繊細な手作業によって空間を創造する平川渚、身体の内部に踏み込んでくるかような荒々しい精神構造を備えた絵画の山下耕平という、個性の大きく異なる3名の招待作家の作品から「原初の感覚」というテーマが編み出だされた。
繊細な触覚と、骨太に流れる悠久の時間を融合したような、この難しいテーマに挑んだのは32組の作家たち。6名の審査員は提出された32冊のポートフォリオを読み込み、一旦数名に絞り込んだのちに決戦投票を行い、三輪恭子の平面作品を用いたインスタレーションが選出された。三輪は、自身のルーツや土地の歴史を繰り返し参照して制作を続けており、作品の表象がテーマに合致していたこともあったが、審査員からはここ数年の作品の展開が高く評価された。
32組の作品は、昨年度の応募作品よりも粒が揃った印象であり、また昨年に引き続き応募してきた作家も複数おり、二回目を迎える公募審査への期待度を実感させられた。ただ、作家にとっては各々が制作してきた作品について、与えられたテーマで新たに読み解く作業はかなりの困難を伴ったと推察され、審査側として、公募するうえでのテーマ設定について改めて考えさせられた。
宮本初音(Fukuoka Art Tips)
Local Prospects企画は2015年に始まった。初回からテーマ設定やアーティスト選考などをお手伝いしてきた。二年目(2016年)から公募が開始されたが、選考委員に加わったのは今回(2017年)からである。20年前は自分自身もイムズ主催の公募展に応募したことがあり、選考される側の意欲と不安を感じながら、応募資料を見させていただいた。
テーマが設定されていても、もともと自分がつくりたい作品があってテーマを引き寄せて資料をつくっているケースが少なくない。作品制作は正解を提示するものでなく、さらなる疑問を提示するものであっていいと思うので、引き寄せるだけでなく超えていくくらいの攻めでプランを作ったほうが伝わるのではないかと思った。自分流でもちろん構わないのだけど、企画者と対話ができるアーティストを選びたい。ここの線引きはけっこう微妙で、過去の作品で力量は充分あるが応募プランがテーマに合っていない場合が悩ましい。一方で公募慣れしているのかきっちりこなれたプランになっているが、本当にそのアーティストの個性に合っているのか分からないケースもある。
今回選ばれた人も選ばれなかった人も紙一重であるということは伝えておきたい。落ちたことで開ける道もある。かつて自分もそう言われ、そのときは信じていなかったけど、本当にそれはある。自分の仕事を信じて、プランや作品をつくり続けて欲しいと願う。
木下貴子(Fukuoka Art Tips)
本シリーズ展「Local Prospects」の立ち上げから企画協力で携わっている立場として言うのも何だが、応募された32点の作品全体を俯瞰して、非常に「地方」のポテンシャルを感じた。九州・沖縄およびその周辺地域を拠点に(あるいは出身に)、地方というハンデと優位性との狭間で表現活動をおこなう感覚は、今回のテーマである「原初の感覚」に近いものがあるのではないだろうか。しっかりしたレベルを保つプランの割合を高く感じた。
私の審査基準は、「原初の感覚」と作品のコンセプトが自然にリンクすることを前提に、完成時に「見てみたい」と感じられるアイデアと完成度への期待、そして「Prospects」(将来性)であった。今回選ばれた三輪恭子は、なかでもコンセプトの提示とプランが突出し、プラン内で提案するある一つの試みは印象的で、私自身の「見たい」という欲を掻き立てた。
完成度や将来性が大いに期待できそうな島内美佳(熊本)、鑑賞者にも「原初の感覚」を呼び覚ましそうな普遍的な力を感じさせる木浦奈津子(鹿児島)をはじめ、目を引く作家がほかに何人もいて、1人に選定を絞らねばならないのは惜しくもあった。だが、ここで終わりではない。多くの作家を知ることができ、来年度以降へと繋がるだけでなく「地方」への希望も湧く、実り多き審査会であった。それこそが本公募の一つの狙いであることを改めて感じさせてくれた応募作家たちに感謝するとともに、次回への意欲も強く期待したい。
鈴田ふくみ(三菱地所アルティアム)
本シリーズは2015年に初開催し、昨年からは若手作家の発掘を目的に、グループ展の中に公募枠を設けている。テーマを持ったグループ展でありながら、公募枠がある独自の構成となっており、必然的にテーマは、展覧会と公募どちらにも該当する必要があった。今回は先に招待作家を選考し、彼/彼女らの作品から「原初の感覚」というテーマを導き出した。
審査の基準は、テーマをいかに自身の制作に引き寄せて解釈し、第三者に伝えるプレゼンテーションができているか、という点を重視した。また、純粋な作品としての美しさや強度も考慮した。
選出作家である三輪恭子のプランは、近年取り組んでいるドローイングの魅力とテーマを自身の制作に置き換えて解釈し、プレゼンできている点が評価された。ただ、展示スペースに対して要素が多い印象があり、展示構成に工夫が必要だと感じられた。この点をクリアにし、さらに表現を深めて11月の展示に臨んで欲しい。
また、彫刻の技法をベースに様々な表現を試みる島内美佳、絵画の可能性を追究する今林明子の作品にも将来性を感じた。実力派の応募も見受けられたが、テーマとの結びつきがやや弱い印象もあり、惜しくも選外となった。
今回応募の展示プランは、何らかのかたちで実現して欲しいし、どこかで再会できれば嬉しく思う。応募いただいた作家全員に、今後の活躍への期待と惜しみないエールを送りたい。
●展覧会概要
Local Prospects 3 原初の感覚
会 期:2017年11月11日(土)〜12月3日(日)
会 場:三菱地所アルティアム(福岡市中央区天神1-7-11イムズ8階)
時 間:10:00〜20:00
入場料:一般:400(300)円 学生:300(200)円、高校生以下無料、再入場可、( )内は前売料金/チケットぴあ・10名以上の団体料金、障がい者等とその介護者1名は無料、アルティアムカード会員・三菱地所グループCARD(イムズカード)会員無料
主 催:三菱地所、三菱地所アルティアム、西日本新聞社
助 成:公益財団法人 福岡文化財団
●出展作家
木下由貴(1986年佐賀県生まれ、福岡県在住/写真)
平川渚(1979年大分県生まれ、鹿児島県在住/インスタレーション)
山下耕平(1984年兵庫県生まれ、福岡県在住/絵画)
三輪恭子(1982年宮崎県生まれ、福岡県在住/絵画、インスタレーション)
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
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