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「Local Prospects 3」が開幕! 気鋭の作家4名の声【レポート】

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木下貴子
2017/11/24
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九州・沖縄とその周辺地域を拠点とする作家を紹介している福岡市・天神の三菱地所アルティアム(イムズ8階)のシリーズ展「Local Prospects」。2015年に初開催され、今年3回目を迎えます。11月11日の初日に行われたオープニング・レセプションには、参加作家4人のうち3人が来場。我々アルトネチームもレセプションに潜入し、会場に押し寄せたたくさんの人々を掻き分け、参加作家からそれぞれにコメントをもらうことに成功しました。
 

レセプションの様子。山下耕平さんの作品展示場所にて、作家たちの挨拶がありました。


これまで様々な手法で、人物画を描き続けてきた山下耕平さん。2014年以降の近作8点と、本展のために描き起こした新作1点、あわせて9点の絵画作品を発表しています。

山下:自分のその時その時の気持ち、感情を絵にしたら、どういう形だったり色だったり表現にしたらいいのかというのを常に考えて作ってきたんですけど、やっぱり顔で表現するのが一番形にしやすくて。モデルはいません。自分の気持ちを代弁してくれるような人物像を描いていて、単純な自画像とも違うような……。微妙な言葉にしづらい、言葉と言葉の間にあるような、そういう気持ちを絵にできたらと思っています。

山下耕平さん(1984年兵庫県生まれ、福岡県在住)

 

2枚組の新作《シーユーレイター》について。

山下:気持ちの盛り上がっている強い気持ちと、一方でぽつんとした気持ちの所在がないような、そういうことを表現したかったので背景として大きな空間や距離感が必要でした。この作品には、これまで作ってきた一連のいろいろな要素が入っていて、いろんな感情の形の終着点というイメージで制作しました。今までは、こういう作品を作らないといけない、今こういう気持ちだからこういう絵を描くんだっていう理由をきちんと自分で作って、納得したうえで描くっていうように、まず幽霊のようなものを作り上げて描いていたんですけど、それがけっこう苦しくなってきたところにちょうど今回のお話をいただきました。「原初の感覚」というテーマに後押しされた感じもあって、割と何も考えずに、フラットな感じで今描きたいものが描けたと思います。

《シーユーレイター》2017年

自身に内在する風景を探り、それを写真に託す写真家の木下由貴さん。2014年に撮影された代表作《内在の遠景》と、新作《明くる海辺》《底の円環》という3つのシリーズを展示しています。

木下:例えば夢とか、一瞬この世とどこか別の世界との間に入ってしまうようなそういう瞬間から見える景色は、もしかしたら個人を越えて全ての人が共通して持っているものではないかっていう気持ちがずっとあって、景色をベースに撮り続けているように少し思っています。そういう景色とか、瞬間とか、音とか、個人を越えて誰とでも共有できるものがあるのではないでしょうか。

木下由貴さん(1986年佐賀生まれ、福岡県在住)

 

海に潜って、海中で撮影した新作シリーズ《明くる海辺》について。

木下:深く潜るダイビングや夜に潜るダイビングを経験したとき、すごく衝撃を受けたんですが、今回の海中の作品はそういうものが多く出ているのではないかと思っています。実際、海に潜った体験というか皮膚感みたいなものが、ふだん地上で写真を身体感覚で捉える瞬間ととても近くて、私の中でそんなに大差がなかったんですね。ですから今回違う作品を撮るぞって海に潜るという感覚ではなくて、自分の中では今までの作品とずっと続いているという感じです。20歳ぐらいの時に潜って見た海の印象が、地上の景色をふと見た瞬間、リンクすることが多くあって、そういうのが最終的に今回のような形でつながることはありうるなと思いながら、発表させてもらいました。

シリーズ《明くる海辺》より


 

木下さんの展示風景


近年、ハワイや与論島などを訪問し、リサーチの過程で目にしたものや印象を元にドローイングを描いている三輪恭子さん。今展では故郷・宮崎の、実家周辺の場所を取材して描いたドローイングをインスタレーションで発表しています。

三輪:遠くの知らない土地で、まったく知らない家族のつながりに自分の家族を思い浮かべたり、知らない場所の風景と自分の故郷の風景が似ていたりとかいうような体験がありました。その遠くの見知らぬ土地のものを掘り下げるよりも、自分の足元をもう一度ちゃんと見てそれを掘り下げていったほうが、実は、遠回りに見えて他の人とつながる可能性があるんじゃないかと思って、今回は実家周辺を取材したりしながらドローイングを制作しました。風景や人をそのまま描いたのではなく、取材するうちに思い浮かんだイメージを描いていったものです。自分のルーツが気になって、先祖の写真などを調べに実家に戻ってみたんですが、叔父が写真とか家具とか全部燃やしてしまっていた事が発覚し、資料となるものが何も残っていない中、親戚に話を聞いて回っていろいろ調べたという経緯もあります。

三輪恭子さん(1982年宮崎県生まれ、福岡県在住)

 

三輪さんは公募枠から選出。テーマ「原初の感覚」に沿って、《すばらしい光の群れが来て》を制作しました。

三輪:「原初の感覚」と聞いて、まず普遍的な感覚について考えてみたんですが、それは分かりやすいものとか誰にでも通じるものではなくて、すごく個人的だけど強い思い入れがある中にこそあるんじゃないかと思って。個人的に特別な思い入れがあるものっていうのは絶対人には伝わらないものです。でもそれを執拗に掘り下げて表現していくことで、奇跡的に伝わる瞬間があると思い、今回は一番プライベートな作品を作ろうと。それがまず一つの「原初の感覚」という捉え方です。もう一つは表現方法としてドローイングを選びました。ドローイングって身体を駆使してやる、意外と肉体的なところがあって自分の身体感覚がもろに出やすいし、また痕跡も残りやすいので、割と言葉にならない面も伝わるんじゃないかと思い「原初の感覚」と繋げています。

インスタレーション《すばらしい光の群れが来て》より(部分)
三菱地所アルティアム提供
インスタレーション《すばらしい光の群れが来て》より(部分)

糸や布を解き/編みつづけることで身体を拡張する平川渚さん(1979年大分県生まれ、鹿児島県在住)。一般の人々から手編みの編み物を寄贈してもらい、一本の糸にほどいて別の形に編み直した作品と、集まった編み物の写真を展示し、寄せられたエピソードの一部をスライドショーで見せています。レセプションに出席できなかった平川さんに、別途コメントをいただきました。

平川:展覧会のテーマが決まってから、「原初の感覚」ってなんだろうなと考えていて、それがたまたま自分の出産というタイミングに重なりました。それまでは自分が場所と向き合って作る大掛かりなインスタレーションが多かったんですが、妊娠・出産という状況の中では難しくなりました。ですので、今回は手元で完結するシンプルな編み方で制作しています。ぐるぐる編んでいくだけというシンプルな手作業の繰り返しのこの作品は、自分の状況が変化したことで新しい形になったという気もしています。

インスタレーション《終わりのない物語》より(部分)

平川:元となった編み物も、作った人たちの手作業がマフラーやセーターの形になったものなんだなと感じています。あたたかい毛糸や、とても肌触りの良い毛糸が使われていて、誰かをあたたかくするために編んだ人たちの思いを追体験しているような感覚を得られました。その人たちも私のように子育てやふだんの生活の合間に編み物をしていたんだと思うんです。生活の中で“なぜ作るのか?”というところに共感できました。一緒に寄せられたエピソードを読んだから特にそう感じられたのかもしれません。専門家でない一般の女性が作るという行為に自分も共感して、その感覚を大事に作りました。

作品の元となった編み物の写真(一部)


今紹介すべき作家であり、またこれからの活躍も期待される気鋭の4人の作家たち。実力と瑞々しい感性を兼ね備えた彼らの、最新の挑戦をご覧ください。

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