UMINAKA TAIYOSO AIR 2017 -滞在制作展覧会-
2017/10/07(土) 〜 2017/10/15(日)
11:00 〜 17:00
大洋荘
西山 健太郎 2017/10/11 |
福岡市東区大岳にある大洋荘は、創業70年を超える福岡の老舗企業が保有する1971年(昭和46年)竣工の元社員保養所で、かつては社員が休⽇のバカンスを過ごしたり、結婚披露宴を⾏ったりして、様々な思い出を⽣み出してきた。その⼤洋荘も平成の時代になってからは活用の機会を失い、空き家同然となっていた。そうしたなか、2017年6月、華やかなりし時代の名残を今もなお漂わせるこの空間への強い思いを抱く有志たちの手により、大洋荘を舞台として魅力的な地域コンテンツを創出する「大洋荘再生プロジェクト」がスタートした。
その一環として今回開催されたのが、アーティスト滞在プログラム「UMINAKA TAIYOSO AIR※」。公募により選出されたアーティストが期間中大洋荘で滞在制作を行い、作品を展示発表する同企画の第一弾として、2017年9月下旬から10月上旬にかけての滞在制作を経て、10月7日に開幕した展覧会の様子をレポートする。
※AIR =ARTIST IN RESIDENCE
ベイサイドプレイス博多(博多ふ頭)からフェリーで15分の西戸崎港。そこから志賀島方面行きの路線バスで10分足らずの「久保」というバス停から5分ほど歩いたところに目指す大洋荘はあった。
福岡市民にとって西戸崎という地名を聞くと、どことなく遠い場所のように感じるかもしれない。だが実際のところ、公共交通機関の接続がよく、天神や博多駅といった都心から1時間もかからずに辿り着くことができる。
今回の展覧会の参加アーティストは公募により決定。選出されたのは写真やビデオを使ったインスタレーション作品を各地で発表している飯川雄大さん(1981年兵庫県神戸市生まれ)と、瀬戸内・男木島などでサイトスペシフィックな作品を制作・発表している矢野恵利子さん(1987年香川県高松市生まれ)の2名。
飯川雄⼤さんの今回の⼤洋荘での作品は、突如あらわれる巨大な猫。空間に対してあまりに大きすぎるため、鑑賞者がSNSで伝えようにも、全貌をカメラに収めることは困難。感動や衝動を第三者に伝えるにあたり、色や形などの外面的要素の情報がどれほど必要なのか疑問を投げかけている。
猫をかたどった高さ6メートルの立体作品は、玄関から裏庭に通じる細い通路に、建物に寄りかかるようにして建てられ、作品の前には青々と生い茂った樹木が立ちふさがる。その全景を一枚の写真に納めるのは、まさに至難の業だ。
食べ物や景色など自分の感動を写真に収め、SNSを使ってそれを瞬時に情報共有できる。
スマートフォンやタブレット片手に世界各地を旅する疑似体験が得られる。
そうした利便性や先進性の半面で、「その場所に足を運ぶ」「その場所の空気を感じる」という主体的な体験で得られる醍醐味が失われつつあるのではないか?
そうしたコンセプトのもと、作品が形づくられている。
取材の最中にも、スタッフの手によって塗料が塗り重ねられ、刻一刻と移り変わる太陽の光と樹木の影。まさに、“この日、この時間、この場所でしか見られない作品“ を目撃することができた。
そして、もう一人の参加アーティスト、矢野恵利子さんの大洋荘での作品テーマは「人が何かをやめるとき」。
スポーツ選手の引退会見から着想を得たという一連の展示作品の一見穏やかな雰囲気とはうらはらに、そこに足を踏み入れた人たちは「自分は何かをやり遂げたことがあるのだろうか?」という切迫感や焦燥感に駆られることになる。そして、特設の記者会見場に腰を据えカメラと対峙したとき、これまで他人事として見てきた著名人の会見風景がまさに自分事として感じられ、その場の主人公たちの充実感や、無念、後悔が脳裏に浮かぶような不思議な感覚にとらわれる。
現在、東京で暮らす矢野さんにとって、この大洋荘2階の6畳間で寝泊まりしながらの制作活動は、予期せぬ驚きに包まれたものだったという。
「大洋荘という不思議な魅力に引っ張られ、建物に寄り添うように作品も変化していきました。」
目を輝かせて語るその表情には、喜びと充実感が満ちあふれていた。
「人と出会い、つながることで、アーティストとしての存在価値を自ら見出す。アーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)の最大の意義はそこにあります。アーティストにとって最も制作がはかどる場所は、自身のアトリエに他ならないでしょう。しかし、未知の世界に身を投じ、その場所の環境やそこに住む人との出会いによって、アーティストとしてのかけがえのない経験が生まれ、新たな世界観が生まれるのです。」
「UMINAKA TAIYOSO AIR」のディレクター、齋藤一樹さんはそう語る。
昨年から武雄市のアートプロジェクト「TAKEO MABOROSHI TERMINAL」を手がけている斎藤さんは、ある実感を得ていた。
「初めてその地域を訪れたアーティストたちが、その土地の魅力に出会い、感動し、その場所の歴史や文化を調べ、作品を制作し、それを前にして語る。その受け手となった住民たちに郷土愛や地域の文化や歴史に対する誇りが湧き上がる。そうした場面を数多く見てきました。」
人が生きるうえで大切なもの、幸せになるうえで必要なものをアートがもたらしてくれる。そして、そうした体験をより多くの人たちに感じてもらいたいーーー
そうした思いを強く語る斎藤さんの視線の先には、今後の「大洋荘再生プロジェクト」のイメージやアイデアが明確な像を結んでいるように見えた。
大洋荘の玄関からほんの数十歩行くと、そこには博多湾の絶景が広がっている。
今後、この場所でどのような出会いと感動が生まれていくのか、120%の期待を抱きながらプロジェクトの進展を見守っていきたい。
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