江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
アルトネ編集部 2017/06/28 |
中村至男さんの「シンプルの明日」
会場の最後には中村至男さんを含む4組の作家に、ブルーナさんの「シンプル」を受けて、それぞれの作品を発表する「シンプルの明日」というコーナーがあります。中村さんの作品は、日常の風景にミッフィーが隠れているという「シンプル」な問いかけがあるもの。タイトルの『#∩∩』自体にも同じような仕掛けがあって、これだけで中村さんの作品だと分かるのが面白いです。
トークでは、中村さんも気付かなかった作風の変化が見えてきました。
中:この話をお受けした時はブルーナさんがご存命で、ひょっとしたら見てくれるかも、1個か2個ぐらいボツとか出してくれるかも、そんな期待を持って作っていました。
どこかに必ずミッフィーが居るんですけど、どこまで見えれば感じるか…っていうのを今の現在の自分のトーンでやってみました。本当はもう何枚かチャレンジしたかったんですけど。ミッフィーを全く描かなくても感じられるような、時間とスペースがあればそういうものも作ってみたかったです。
こういう楽しみ方って本編がしっかりあって、それが完結してから見る別の楽しみ方というか。二次創作という感じ。どんどんデザインを探りながら作ってきたブルーナさんの時代と、モダンもモダンのあともその後…も、何周もまわった今の時代のグラフィックデザイナーでは、同じ「デザイナー」でも作るものは全く違う。マンガとかアニメの二次創作的なモノというのが近いのかな。言葉で言ってもね…ちょっと見て頂けますか。
菊:ミッフィーを有名人という前提で扱ってますよね。
服:最初はブラック・ベアシリーズに出てくる「シャドー」や、他のキャラクターでやってみるお話も出ていたんですけど、やっぱりみんなが知ってないと「見つける楽しみ」っていう設定って難しい。ミッフィーっていう誰もが知ってるキャラクターだからこそ、耳の形の一部だったとしても成立しますよね。
中:本当は僕は尖っている耳(初期のミッフィー)とか好きなんですけど、やっぱりこの考え方だと丸い耳の方が正しいんだろうと思いますね。
菊:ちょっと聞いても良いですか?至男さん、最近妙にマットな色調というか、グレイッシュな、あまりコントラストが強くない色を使っていますよね。色に対して何かありますか。
中:え…あ、ほんとだ!今言われて気がついた。そうですね。やっぱりアニメとかマンガを見ながら育った世代なので、縁取りの主線と言うんですか?黒い線が表現方法として子供の頃から刷り込まれていて。それが何故だんだんグレーになってきているんだろう?現代的にinstagramで「#∩∩」で検索したら何が出てくるだろう?みたいな仮設定があったりしたので、写真的な空気を感じたほうがいいと思ったのかな。無理やり今、答えを試みてみると。
服:モニター越し、みたいな気分があるんでしょうか。
菊:結構グレイッシュでしかもトーンがあるんですよね。
中:どっちがいいですか?
菊:いやいや(笑)。トーンがあるというのは要するに、淡いグレーと濃いグレーとか階調違いがある。そうすると画の中に光を持ち込むということになる。微妙な対比なんだけど、そういうものがだんだん入ってきたなと思って見てたんですよ。昔はもっと幾何学的なラインで、パースがなかったり、陰影がなかったりしたんだけど。最近は透視図法が入ってきて、しかもトーンも入ってると思って。
中:まだまだ成長中です(笑)。
菊:画面の構成でいうと、割とどこでも切り取れる広い情景があって、写真のように切り取ってきたみたいな、ある種の便宜性に見えるのが面白いなと思いました。一枚の絵として定着させたわけじゃなく、瞬間的にトリミングしたような感じが。
中:キリトリ癖はなんかね、職業柄あるんですよね。ついついやりますね。
この後も展覧会の解説や中村さん・菊地さんそれぞれの絵本の紹介、ブルーナさんが生前に遺されていた絵本『de beer is dood(クマくんがしんだ)』の話などが行われ、トークは終了。
「ミッフィー展」ではなく「シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン」展のオープニングトークらしく、会場には筆者のような同業者のデザイナーが数多く集まり、菊地さん、中村さん、そしてブルーナさんそれぞれのデザインの話に耳を傾けていました。トーク全体の書き起こしはアルティアムのWebサイトに掲載されているので、そちらも合わせて読んでみてください。
ちなみに、ボツになったメインビジュアルの一案目は「バーコード状に色を四色重ねた四角い虹色的なものに、ブラック・ベア―出版社のマークだけが入っている、より記号性が高く、囲みも入って印鑑的なもの。非常にディック・ブルーナだけど、見たことのないものがステッカー的に汎用できるので、ポスターに限らず展覧会のイメージを作るのに有効だなと思って。その仕組み自体を提案したつもりだったんですけど、だめだった。」だそうです。想像できましたか?こちらのパターンも街で見てみたかったですね。
「シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン」展は天神イムズ8Fの三菱地所アルティアムで7月2日(日)まで開催中です。デザイナーとしてのディック・ブルーナの「シンプル」の仕組みを、会場で確かめてみてください。
三迫 太郎(みさこ・たろう)
アート・生活に関わる分野で福岡を拠点に活動するグラフィックデザイナー/Webディレクター。福岡のクリエイティブメディア「CENTRAL_」、zineレーベル「10zine」の運営など、Webでの情報発信からイベント運営まで様々な活動に携わっている。
http://taromag.misaquo.org/
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