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【連載】山出淳也 アート、まちに出る 2

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山出淳也
2020/12/03
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センセイとの出会い(前)

 生来、行き当たりばったりで、将来のことなど考えてこなかった。世の中はバブル景気の真っただ中。「右肩上がりの成長はこれからも続く」と得意げに語るコメンテーター。浮かれた世の中を遠くに眺め、高校生の僕は過ぎ去っていく世界の片隅での毎日にうんざりしていた。

 そんなある日、いつものように部活から帰りシャワーを浴び、たまたま流れていたテレビ番組に心がざわついた。剃髪(ていはつ)の初老の男性がノミを手に一心不乱に石を彫っていた。「ようやく完成したのです」。落ち着いたナレーションとともに、平たくて厚みのある物体が現れた。それが何かよく分からなかったけれど、灯で照らされた黒く波打つその表面が綺麗(きれい)で、ただただ目が離せなかった。「まるで星空の下の海のようだ」と思った。サンテグジュペリの物語に出てくる飛行士になって自由に飛び回る姿を想像した。僕はすごく喉が渇いていることに気がついた。

 翌日、先生に学校を辞めたいと伝えた。適切な言葉を持ち合わせず、「自分もつくりたい、早くあの人に会いに行かなきゃ間に合わない」と、身ぶり手ぶりを交えてそんな話をした。先生は僕が見たものを作るためには、資格が必要だ、専門の学校を卒業しなければいけないんだ、とこちらも無茶苦茶(むちゃくちゃ)な理屈で僕を説得した。そうして友達が通う大分市の画塾に見学に行くことにした。

 そこで出会ったセンセイが僕の人生に大きな影響を与えることになる。「君は美大に通いたいんか?」「はい」「じゃあ、その石膏(せっこう)像を描いてみよ。ここに座って…」と説明もそこそこに人生初のデッサンなるものに取り組んだ。絵を描くのが大の苦手で、美術の時間が嫌いだった。それでも周りの先輩のただならぬ緊張感も手伝い、描くことに没頭しあっという間に2時間がたっていた。終了の鐘が鳴った。

 「ファンキーやな」。塾生の絵とともに並べられた僕の絵を見て、センセイはそう言った。同席していた先輩方も皆笑った。顔から火が出るほど恥ずかしかった。

 僕のアートとの関わりはこうして始まった。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(11月3日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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