九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  連載記事 ›  【連載】山出淳也 アート、まちに出る 10

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 10

Thumb micro 6f691dcb2f
山出淳也
2021/01/07
LINE はてなブックマーク facebook Twitter


別府へ​

 その後、パリに移り住んだ。

 20代後半から海外の仕事がほとんどとなり、日本に帰ることは想像できなかった。朝から晩まで作品制作に追われ、プレッシャーを感じ、ゆっくり考える時間を持てなかった。

 2001年にパリにできた現代美術センター「パレ・ド・トーキョー」。そのこけら落としとなる展覧会に招かれた。館長はニコラ・ブリオーとジェローム・サンス。ジェロームは他にもいろいろと展覧会に呼んでくれた関係で、よく会っていた。

 彼の口癖は「メニーメニーポシビリティ!」。いつも僕に「君にはたくさんの可能性がある」と言ってくれた。その言葉がこそばゆくて、その期待に応えられるだろうかと不安にも思った。

 ホウ・ハンルーともよく会った。中国出身の彼は国際的な美術評論家である。彼のパリの仕事場でこんな話を聞いた。「アートはこうでなくちゃいけないなんて誰が決めた。アートは常に更新されるもの。自分は、まだ見ぬアートの可能性を提示してくれるアーティストとのみ仕事をしたい。だけど、自分のルーツを見失っては、誰の表現なのか分からなくなってしまう」

 そんなある日、インターネットで日本の新聞を読んでいた。ちょうど開いたページに出ていたのは、いま別府市が面白い、という記事だった。別府は町歩きが盛んである。住民が地域の歴史を学び、市民だけではなく観光客に伝えるために路地裏を巡るツアーを実施している。一人でもお客さんが参加すれば必ず案内する。確かそんなことが書かれていた。

 子どもの頃、盆や正月に親戚と泊まりに行った別府で、こんな活動が始まっているのかと思い、すごく胸が高鳴った。別府は今どんな姿なんだろう。知り合いのアーティストたちにも見てもらいたいな。彼らはきっとあの町に刺激を受けて作品を作るに違いない。それを町中に展示したらどんなに素敵(すてき)だろう。僕はその景色を強烈に見たくなった。

 そして僕は、誰からも頼まれていないのに日本に帰ることを決めた。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(11月16日付西日本新聞朝刊に掲載)=

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 59ed649e02
終了間近

大森記詩展
SCALESCAPE:ホビー/アート/ジャパン

2025/09/13(土) 〜 2025/10/12(日)
田川市美術館

Thumb mini 5fd1166b48
終了しました

特別展 「法然と極楽浄土」関連イベント
トークショー 仏像の世界へようこそ! はなさん と学芸員がナビゲートする極楽浄土ツアー

2025/10/12(日)
九州国立博物館

Thumb mini 5c6d741256

瀬戸口朗子 境界でめぐり逢う 

2025/10/11(土) 〜 2025/10/25(土)
EUREKA エウレカ

Thumb mini 4ef160e33a

企画展
人形アニメーション創成期の人形作家 小室一郎展

2025/10/11(土) 〜 2025/11/09(日)
高鍋町美術館

Thumb mini d31fc9aa99

売茶翁生誕350年特別展
売茶翁と若冲

2025/10/07(火) 〜 2025/11/24(月)
佐賀県立美術館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini 8310e24943
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 9

Thumb mini 26ed61aaf6
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 8

Thumb mini 00935c1da7
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 7

Thumb mini ee134af791
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 6

Thumb mini 9bb31b0224
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 5

特集記事をもっと見る