江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2021/12/14 |
全国で感染者数が激減し、久しぶりにコロナ禍以前に近い日常が戻ってきつつあると思いきや、新たな変異株、オミクロンの脅威が世界を駆け巡りつつある。実態はまだよくわかっていないものの、ワクチン接種の効果をすり抜ける恐れもあり、予断を許さない。日本政府も間髪入れず新たな海外からの外国人渡航者の入国禁止という厳しい措置に出ている。
いったいこのパンデミックはいつ収束するのだろう。20世紀初頭に人類を突如として襲ったいわゆるスペイン風邪は、収束まで足掛け3年に及んだ。だが、足掛けで言うなら今回のコロナ禍は、令和元年の最初の報告から数えれば年明けにはすでに4年となる。今後も変異が続くなら、特効薬でも登場しない限り、新たな感染リスクの上昇や重症化の懸念は残り続ける。私たち人類が今後、この新型ウイルスに対抗するためのワクチン開発、抗体の低下にともなう接種の繰り返しから解放されるのは、いったいいつのことなのか。
だが、長きにわたる日常の変容下、忘れられていたスペイン風邪の「再発見」にともない、パンデミック下にあった20世紀初頭の美術史(ダダやシュルレアリスム)をめぐって見直しの余地が出てきたことについては、この連載でも当初に触れたとおりだ。同様のことは19世紀に誕生した写真術とその歴史的な歩みについても言えるかもしれない。
このことについて触れたオンライン・トークが去る4日、東京、浅草のスペース、Book & Designで開かれた。これは蔵前のiwao galleryと共同開催の『BAUHAUS HUNDRED 1919―2019 バウハウス百年百図譜』(伊藤俊治著)刊行記念展の関連企画で、著者に加え造本を手掛けた松田行正と、ゲストに写真家の港千尋を招いて開かれた。バウハウスとは20世紀以降のモダン・デザインの行方を決定づけたとされるドイツに発する総合芸術運動、教育機関だが、そこで伊藤は第1次世界大戦後、というよりもスペイン風邪の世界的大流行以降の1920年代にドイツで台頭する「新即物主義」が、バウハウスの写真に潜む対象を「見つらぬく」視線に通ずるものではないかと説く。
そして、この「写真眼」とも呼びうる従来のリアリズムを超えた「魔術的リアリズム」をめぐる、対象から距離(ディスタンス)をとり、その不合理さ、不吉さを物や人の内部まで見通すかの冷酷な眼差しの背後に、20世紀初頭のパンデミックの影を見ようとする。
実際、新即物主義の絵画や写真に特有の対象への客観的な視線は、対象をそっくりに写しとる伝統的なリアリズムの手法や特性とはまったく違う印象を受ける。写実の精神やその裏返しでもあった表現主義の根幹にあった主観的な要素は徹底的に排除され、いっそ非人間的とさえ呼べる冷酷な態度がそこにはある。
伊藤はこれに続け、現在進行中の21世紀初頭のパンデミックについても、今後の写真や表現をめぐる動向について考える際に、バウハウスから新即物主義に至るかつての経路がひとつのヒントになるのではないかと語るのだ。
たしかに、言われてみれば前回の本欄で取り上げた「写真新世紀2021」のグランプリ作、榛名湖に張った氷がやがて融けるまでを無人の風景のなかで、自己からも他者からも距離を取り撮影した映像作品、賀来庭辰の『THE LAKE』には、そのような要素が色濃く出ていた。コロナ禍の苦悩や停滞は、アートにおいても表現や個性から冷徹な距離を取る方向を推し進めるかもしれない。(椹木野衣)
=(12月9日付西日本新聞朝刊に掲載)=
椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。
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