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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 12

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藤浩志
2017/10/17
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事件をつくる​

【鴨川泳ぐコイのぼり 府土木は拾得物で撤去 見物人「夢のあるいたずら」】との記事がある夏の日の朝刊に掲載された。記事には「23日朝、三条大橋直下の鴨川に三メートルから五メートルほどの大小十三匹のコイのぼりが流れを泳ぎ、大橋を渡る人たちの目を川面にくぎづけにした。コイたちは残暑の中、仲良く並んで心地よげ。」と続く。このニュースは新聞記事だけではなくテレビでも報じられ、鹿児島の実家や東京の友人からも連絡をもらった。この鯉のぼり計画、企画書を書いて周到に準備したものの、どこに許可を取ればいいのかわからず、実際に展示してみた結果、こんなことになった。
 せっかく展示した作品が行方不明になって途方にくれていたところ、大学から電話が入った。すぐに土木局に謝りに行けとのこと。僕が通っていたのは京都市観光課管轄の京都市立芸術大学で、京都市の観光のために文化芸術が重要だということで設置されていた。大学では鯉のぼり問題に対して緊急会議が開かれたのだとか。学長だった梅原猛さんが京都府の土木局が無断で撤去してしまったことを問題視し、京都府に対して抗議したのだとか。なんとも大変なことになってきた。
 鴨川の上流の京都府土木局を訪ねた。「あの~、鯉のぼりの件で来ました~」「あなたが鯉のぼりの! さ、どうぞ」とスリッパが出てきて、立派な応接間に通され、蓋(ふた)のついた茶碗(わん)においしいお茶が出て、ネクタイ姿の方々がずらりと並び、「今回は誠に申し訳ございませんでした」と謝られてしまった。「作者の意図を十分に聞くように言われております」とメモを取ろうとしている。
 唖然(あぜん)としつつ、懸命に説明をしたけれど、皆さん困っている。僕としても無断で設置してしまった事情を説明して始末書をその場で書く。目が飛び出るほどの撤収費用が請求されることなく、犯罪にもならず、無事に解放され、その後川から引き上げた鯉のぼりたちをライブハウスの入り口に日干しにして展示した。
(美術家。挿絵も筆者)=7月14日西日本新聞朝刊に掲載=

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