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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 14

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藤浩志
2017/10/21
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社会を彫刻する

 よくわからないけど体が動くことがある。足も動く。これがとても大切だと思う。わからないことに心が少し振れて、それが増幅し、体を動かさなければならなくなる感じ。
 ヨーゼフ・ボイスが来日して東京の草月会館でナムジュン・パイクとパフォーマンスを行うと聞いて、なぜだか体が動いて京都発の夜行列車に乗り込む。実はボイスについてほとんど知らなかった。たまたま見た美術雑誌で紹介された活動が、それまで体験した活動とあまりにも違っていて、スゴイと思った。そこに近づきたい。彼の活動に触れてみたい。
 ヨーゼフ・ボイスは社会彫刻という概念を語り、緑化プロジェクトを作品化したり、権力者を象徴する王冠の金を溶かしてうさぎのオブジェに作り替えたりと、政治に関わるパフォーマンスを行う。演劇を経由してパフォーマンスを志向する僕にとって、何か無視できない気がしたのだ。
 草月会館の舞台の上に黒いグランドピアノと妙な形の赤いグランドピアノが向き合ってセットされ、黒板が置かれている。パイクは黒いピアノを奏で始める。ボイスは黒板に向かい何か語りながら描き始め、ピアノを弾くのかと思いきや、マイクを抱えて「ウォ、ウォ…」と呻(うめ)き声を出し始める。いつピアノを弾くのだろうと期待していたが、ずっとそのウォウォは続き、ピアノを弾くことはなかった。おそらくコヨーテの鳴き声なのだろうが、さっぱりわからん。しかしそれがなんだか崇高なのだ。不思議だ。騙(だま)された感じ。パフォーマンス終了後、最後まで残っていた観客がボイスにサインを求めた。僕も持ち歩いているノートを取り出し、表紙にサインをもらった。彼が何かを語りかけてくれたが、意味がわからなくて困惑した。
 しばらくしてテレビのウイスキーのコマーシャルでボイスを見かけるようになったが、次の年、彼の訃報を聞いた。何かを受け渡されたような気がした。
(美術家。挿絵も筆者)=7月19日西日本新聞朝刊に掲載=

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