江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2022/07/15 |
数年にわたり猛威を振るった新型コロナウイルス感染症の蔓延も、とうとう峠を越したか、と思いきや、新たにサル痘と呼ばれる聴き慣れない感染症が欧米で流行り始めているらしい。
すでに韓国、台湾でもヨーロッパからの帰国者より感染事例が見つかっており、海外への渡航が緩和された日本も他人事(ひとごと)ではなくなってきた。また、しばらくなりを潜めていたインフルエンザの集団感染も新たに見られるようになり、東京、立川では学年閉鎖となった学校が出た。
報道によると、現在は冬にあたるオーストラリアではインフルエンザの爆発的な流行が起きているという。日本でも、インフルエンザによる学級閉鎖と言えば空気が乾燥した冬が定番だったが、梅雨時に流行とは、いったいどうしたことだろう。感染症対策が緩和されたとは言え、道行く人はマスク姿が圧倒的に多く、手指の消毒や体温の検査はほぼ日常化し、ウイルスとの接触も以前と比べ比較にならないくらい減っているはずなのに。
梅雨と言えば、東北南部では先日、統計史上もっとも早い梅雨明けが発表された。東京もその数日前に梅雨明けしている。だが、梅雨らしい梅雨があった気がしない。そこへきて6月としては過去に例を見なかった先の猛暑である。コロナ禍の「波」は目立たなくなったけれども、だからといって以前の懐かしい「四季」が戻ってくるということでもないようだ。
こうしたことを考え合わせたとき、やはり人類は終わりの見えない気候変動と、それに伴う新たなウイルス感染症が引き起こすエピデミックやパンデミックと当分、手を替え品を替え付き合い続けなければならない段階に入っているのかもしれない。
もっとも、ことのはじめから地球は人類のために作られたわけではない。動物もいれば虫もいる。植物や菌類、目に見えない細菌やウイルスも、大気圏内には至るところ偏在する。人間の文明は科学の力によって新しい段階を得たが、半面、こうした共存者の存在を必要以上に意識の外に排除してしまったかもしれない。
冒頭で出したサル痘にしても、これまではアフリカ大陸の一部で報告されるに留まっていたのが、それらの国への渡航歴のない患者が相次いで見つかっている。ヒトが首尾よく地球を移動できるのは航空機をはじめとする文明の尺度だろうが、逆にそのことで、ウイルスも寸暇を惜しんで世界を飛びまわるビジネスマンよろしく、その同伴者のようにあっというまに世界へと拡散されるようになった。
とするなら、これからのアートは、これらの歓迎されざる「同伴者」のことを意識しないではいられないだろう。ウイルスは作品にも、それを作ったアーティスト自身にも、そしてそれを支えるキュレーターやギャラリストの出張にも、宿泊先だけでなく、展示場までぴったりとついていくかもしれない。
これまで、アートと言えば圧倒的に「見るもの」だった。だが、これからは単に作品を見るだけでは済まされない。いくら見ても「見えない」存在が、その移動や流通を根底から脅かしているかもしれないからだ。これは消毒や体温測定、各種検査といった付随的な問題ではない。むしろ、そうした目に見えないウイルスとの付き合い方は、これからのアートの「見え方」そのものを確実に変えていくことになるだろう。(椹木野衣)
=(7月7日付西日本新聞朝刊に掲載)=
椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。
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