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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 27

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藤浩志
2017/11/21
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色がないところ​

 窓の外を眺めていた。見慣れた日常の風景だが、冷静に考えたらすごい風景だ。ジョー・ナロというパプアニューギニアを代表するペインターの研究室で助手のような形で机をもらい、そこの窓から見える学校の庭。花が咲き乱れ、蝶(ちょう)が飛び交っている。
 両手の指で四角いフレームを作り、その中に幾つの花があり、蝶が飛んでいるかを数えてみた。おおよそ100ぐらいの花が咲き乱れて、蝶が20-30匹は飛んでいる。体を動かして目の前の風景にいくつのフレームが入るかを数えてみる。30コマぐらいだろうか。ということは、目前の風景に3千ぐらいの花が咲き乱れ、600匹以上の蝶が飛び交っていることになる。
 鳥の鳴き声は何種類も聞こえている。目では見えないが様々(さまざま)な昆虫がその風景の中に生きている。植物なども合わせると数万という生命が平和な日差しを受けて鮮やかに生きている。まさに極彩色の楽園の風景。
 しかし現地の言葉には色を表す言葉がないのだとジョーが教えてくれた。色が溢(あふ)れる世界では色の違いを概念化する必要がない。平和や自由という概念が戦場や束縛された状況において初めて求められるように、概念や言葉は失った時、あるいは奪われた時に芽生えるということを知った。一年を通してパパイア、バナナ、マンゴーのように多くの美味(おい)しい食べ物が実っているからこそ、味についての言葉も少なく、美味しいことをイナップ(=いっぱい)と呼んでいた。
 近年東北に暮らすようになり、一年の半分、白い雪で閉ざされる生活の中で、この地域の人にとって色がいかに重要かということを知った。冬に向かい世界が閉ざされる前の紅葉の色に心を動かし、雪に閉ざされたあと、新緑や芽吹きを待ち焦がれる。花咲き始める春の色や生命の表情に敏感な感性が育つのはそのような状況があるからだ。人の感性は豊かさの中に育つばかりではない。欠落の中でこそ多くのものが育っているのではないだろうか。(美術家。挿絵も筆者)=8月7日西日本新聞朝刊に掲載=

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