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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 31

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藤浩志
2017/11/30
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美の象徴としてのヤセ犬​

 パプアニューギニアのまちの周辺で、みすぼらしいヤセこけた犬を数多く見かける。近づこうとする犬に対して人は石などを投げて追っ払う。そのヤセ犬が無視できなかった。ある時、文化人類学者と一緒にセピック川の奥地にある昔ながらの生活をしている村を訪れた。その村にもやはりヤセ犬がいた。その時の記述が当時のノートに残っている。
 「その村でみかけるそのヤセ犬達は、病気で毛がちぎれ、ハゲハゲのガリガリで、卑屈なまなざしがやたらと印象的だった。決して人間に媚(こ)びることをせず、与えられることをせず、人目を避けるように人間と共生しているその犬達には、先進国諸国で豊かに暮らしている『飼い犬』のような生温かさはなく、かといって自ら獲物を捕らえる野犬のような鋭さもない。単にボロボロのボロぞうきんのようなヤセ犬だった。ところがそいつらが、1年に数回だけ村で特別な儀式とか祭礼とかがあるときに、人間達といっしょに野豚狩りにでかける。人間の仕掛けた罠(わな)に獲物の野豚を追い込むのがヤセ犬達の仕事だという。村人達は特別な儀礼のときだけ豚を食べる。その食べカスがヤセ犬達にとっては唯一のご馳走(ちそう)であるらしい。僕は走る姿すらも想像できないそのヤセ犬達が、野豚を追っかけるなんてとても無理だろうと思っていた。しかし、僕はそこでものすごいものを見てしまった。そのヤセ犬達が野豚を見つけた瞬間、すごい! 全身にエネルギーが満ち溢(あふ)れ、変身してしまった。そしてまるで猛獣のように猛然と、一斉に、すごい勢いで野豚を追い始めた。その姿があまりにもすごくて、僕の体は思わず震え始めた。僕の脊髄に何かが走った。感動で涙が出るほど『美しい』と思った…。」
 ヤセ犬との出会いが僕の人生を変えたと言っていい。なんでもないもの、むしろ社会的に低く見られているもの、価値がないとされているものがエネルギーを持つことで、全く違う次元のものに変化する。それが美しさなのだと確信した。(美術家。挿絵も筆者)=8月11日西日本新聞朝刊に掲載=

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