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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 39

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藤浩志
2017/12/21
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砂漠に湖の絵を描く​​

  エジプト国内のサハラ砂漠の中に海抜マイナス40メートル地帯がある。そこに地中海から100キロメートル程度パイプラインで海水を引き込むと四国ほどの大きさの海水湖ができるという話があった。海水では植物が育たないとか、砂地が海水を吸い込み地盤が緩くなり、地震を誘発させるとか、蒸発が激しく塩分濃度が濃くなるとか、いろいろな話があった。
 都市計画とか地域計画・建築企画の仕事は、まさに風景にイメージを描く仕事だと思う。通常それらの仕事はクライアントがいて課題に対して調査し提案を行うが、アートや研究の世界ではクライアントが自分の中にいると日頃説明している。誰にも頼まれてないことを「おい、これやらなくていいのかい!」と中の自分が囁(ささや)いてくるのだ。
 エジプト国内の海水湖の計画は都市計画事務所の所員としての仕事だった。海水を淡水化する研究者とか海水で育つ植物の研究者、地震学者、地質学者等と専門家チームを組んで大規模な調査をおこなうことになり、その資金集めのためのプレゼンテーション資料をつくるのが僕の担当。それはアフリカの食糧問題の解決にも繋(つな)がる。大規模の海水湖が出来た場合、どれくらいの規模の街が周辺に開発され、経済効果があるのかなどの妄想を、白地図をトレースしカナダの五大湖周辺を参考にシミュレーションを作り絵に描く。その時、地図上にあるオアシスマークが気になっていた。海水湖ができると水没してしまうエリアにオアシスがいくつもある。そのなかで一番美しいとされ、クレオパトラが別荘を作ったと言われるシーワオアシス。そこには美しい塩の湖が広がっているとの話を調査した人から聞いていた。
 結局調査団による調査・検討の結果、実現困難という報告書ができあがり計画は中止になった。仕事は終了したが僕は図面上で水没させてしまっていたシーワオアシスが気になって仕方ない。僕の中に「おい、行かなくていいのか」と囁く声が聞こえていた。(美術家。挿絵も筆者)=8月23日西日本新聞朝刊に掲載=

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