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追悼人間国宝中島宏展によせて 写真家 山崎 信一さん 挑む姿と執念に共鳴―連載【コラム】

2019/05/05 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

あれは冬曇りの夕方のことでした。明け方5時ごろから午後5時まで雪の中でねばって、やっと30秒だけ晴れた空の青を撮影したんです。今展の図録に掲載した、中島宏先生の「弓野窯」の雪景色。竹林の先に広がる青を待ち続けました。

写真家 山崎信一さん


6年ほど前、最初に武雄市弓野の先生宅にうかがったときに案内されたのは物原(失敗作の捨て場)でした。無数の青磁の破片が積もっていて、「命がけで作陶している」と覚悟と執念を感じました。
先生は心の底から弓野を愛し「この自然と気配を作品にしたい」と口癖のように言っていました。先生の美意識に応えるため野鳥の訪れを日がな一日待ったことも。福岡市のスタジオにいると先生から電話がかかり、「今、雨上がりで紅葉が落ちたところに日が差している。きれいだからすぐに撮りに来い」と突然呼ばれたこともありました。
先生の作品は豪快です。その強さを出そうと、下から見上げるように撮影すると「こういう風に俺の作品を撮ったカメラマンはいない」と、図録を任されるようになりました。ライティング(照明)は固めに絞り、彫りの陰影が際立つようにしました。
「切羽詰まった状況でこそいいのができる」と、先生は個展前のぎりぎりまで作品を作り、ならばと私も挑む姿勢でカメラを構えます。撮影の間にも貫入がピシピシと入る音が響き、その細いひびの中にも届く照明の光を作り出し、シャッターを押しました。

≪作品紹介≫青磁オブジェ「天空の息吹」(1987年、個人蔵)
天のしずくのような実験作。今展では構想スケッチも展示。
展覧会ポスターには、朝焼けの弓野窯で幻想的に撮影された1枚が使われた。


今展は2種類のポスターを作り、従来とは違う新鮮な魅力を写真のアングルでも表現しています。
先生は晩年「やっと俺は自在に色を作れるようになった。今からいいものを作るぞ」とおっしゃっていました。ご葬儀の日、武雄の空には虹が架かっていました。(談、聞き手は平原奈央子)

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