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絵に宿る風土 大地の力展① 揺るぎない眼裏の光

2021/11/18 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 街頭パフォーマンスで世を騒がせた前衛芸術集団「ネオ・ダダ」のリーダー。消費社会を鋭く批判したオブジェ。先鋭的な印象が強い吉村益信が、これほど牧歌的な光景を描いたとは。

 担当の佐々木奈美子学芸員は「1970年の大阪万博で引っ張りだこの活躍後、一転してエコロジーに傾倒し、海の絵を描いていた時代」と解説する。光の粒子をつなぐように描かれた菜の花は、どこか筑後平野の風景にも重なる気さえする。大分市で薬局を営んでいた吉村の父は、久留米市田主丸町出身という。

 絵には青く縁取りが塗られている。記憶を切り抜いた額縁のようだ。

吉村益信「菜の花畑」(1974年、大分市美術館蔵)

 一方、昭和30年代、中央中心の美術界に一石を投じた前衛美術集団・九州派の一員だった尾花成春は、うきは市に生まれ育った。筑後平野の菜の花を画題とする「黄色い風景」は繰り返し描いている。油彩をベースに、その都度、木などさまざまな物体を塗り込めている。「この作品には花びらが塗り込まれていると、今回初めて分かった」と佐々木学芸員。画肌で実験を繰り返そうとも、まぶたの裏に焼き付いた菜の花像は揺るぎないと確信していたのかもしれない。

尾花成春「黄色い風景」(1958年、個人蔵)

(担当:大矢和世)

****

 久留米市美術館で、開館5周年記念展「九州洋画Ⅱ 大地の力 Black Spirytus」(西日本新聞社など主催)が開かれている。12月12日まで。「九州ゆかりの近代洋画」を軸にコレクションを構築する同館。特に風土を反映した力強い表現に光を当てる企画展だ。黒田清輝、坂本繁二郎といった巨匠から気鋭の若手まで幅広い作品78点が並ぶ。筆跡に宿った迫力の一端を届けたい。

=(11月16日付西日本新聞朝刊筑後版に掲載)=

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