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特別展「最澄と天台宗のすべて」 九博で21日まで あつい信仰 生んだ名宝

2022/03/11 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 動乱の奈良時代、近江国(滋賀県)で生まれた天台宗開祖の最澄(767~822)は、幼名を「三津首広野(みつのおびとひろの)」といった。学才に秀でていたという。

●重要文化財「伝教大師(最澄)坐像」
現存する最古の最澄の肖像。頭部と体部を一材から彫り出す技法で、
鎌倉時代に作られた。頭巾をかぶり袈裟(けさ)を着けて瞑想(めいそう)する姿
=鎌倉時代・貞応3年(1224)、滋賀・観音寺蔵

 13歳で出家し、15歳で得度、20歳近くで当時は国家資格だった僧侶になっている。山林修行を積んだ比叡山で、延暦寺(大津市)の前身を建て、薬師如来像を自ら刻んで本尊とした。

●国宝「釈迦金棺出現図
涅槃(ねはん)に入った釈迦が母の嘆きを静めるため、ひつぎから起きて説法する場面を描いた
平安時代の絵。織田信長による比叡山焼き打ちの難を逃れたと伝わる
=平安時代・11世紀、京都国立博物館蔵

≪誰もが等しく悟りを開ける≫
 最澄は中国隋時代に大成した「法華経(ほけきょう)」を経典とする天台の万民救済の教えを追い求めていく。当時の腐敗した仏教政治の打破を進める桓武(かんむ)天皇の後押しを受けて研さんのために唐(中国)へ渡り、天台教学のみならず禅、戒律、密教を学んだ。帰国後は九州や東国へ巡礼に出て布教にまい進した。

 教えは弟子たちに受け継がれる。10世紀半ば、中興の祖・良源が天皇や藤原氏からの厚い信任を得て最盛期を迎えた。織田信長による比叡山焼き打ちで一時衰え、徳川家康に仕えた天海によって江戸時代には勢いを増した。浄土宗の法然、浄土真宗の親鸞、臨済宗の栄西ら各宗派の祖師たちも若い日に学んだ比叡山は、やがて「日本仏教の母山」と呼ばれた。

●国宝「金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅図」
経文の字で宝塔を形作り、
左右に経典の内容を描いている。
明るい色調と紺紙とのコントラストが美しい
●国宝「金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅図」
宝塔の初層の拡大図
=平安時代・12世紀、岩手・中尊寺大長寿院蔵

 時の権力者に愛され、疎まれ、日本の歴史や文化に大きな影響を与えた天台宗―。九州国立博物館では現在、各地の天台ゆかりの寺院で守り伝えられてきた国宝を含む仏教美術約120件を集めた特別展が開かれている。1200年にわたるあつい信仰の連なりを総覧する企画といえる。

●「菩薩遊戯坐像」
60年に1度のみ公開の秘仏。立てた左膝に仰掌した左手を置き、
右足を踏み下げ右手を岩上についてくつろぐ。
身のこなしは自然で着衣の表現は写実的だ
=鎌倉時代・13世紀、愛媛・等妙寺蔵

 同博物館の大澤信(しん)研究員は「最高の仏教美術を間近で、さまざまな角度から鑑賞できる機会はめったにない」と話している。 (納富猛)※本文中の最澄の生年などには諸説あります


●九州とのゆかり深く
 最澄は唐に渡る前、九州に1年ほど滞在して北部の山を巡った。福岡県太宰府市周辺の宝満山や筑豊の香春岳で航海安全の祈りをささげ、帰国後には無事を感謝するため宇佐神宮(大分県宇佐市)を訪れたという。

 弟子たちも師が歩んだ道をたどった。太宰府天満宮近くにあった竈門山寺で最澄ゆかりの神仏に読経したとされる円仁(えんにん)は、大興善寺(佐賀県基山町)を再興したと伝わる。大分の国東半島や福岡の英彦山、求菩提山などには天台系の修験道ができた。

 会場では、霧島山(宮崎、鹿児島県境)や脊振山(福岡、佐賀県境)を巡った性空(しょうくう)の坐像、大分県豊後高田市の長安寺所蔵「太郎天及び二童子立像」など九州ゆかりの文化財もある。


▼伝教大師1200年大遠忌記念特別展「最澄と天台宗のすべて」
 福岡県太宰府市の九州国立博物館で、3月21日まで開催中。西日本新聞社など主催。観覧料は一般1900円、高大生1200円など。午前9時半~午後5時開館。月曜休館。同博物館=050(5542)8600
 

=(3月5日付西日本新聞朝刊に掲載)=

 

■特別展 「最澄と天台宗のすべて」のチケットのご購入はコチラから。

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