ヒンドゥーの神々の物語
2022/01/02(日) 〜 2022/03/29(火)
09:30 〜 18:00
福岡アジア美術館
2022/03/18 |
福岡アジア美術館で3月29日まで開催中の「ヒンドゥーの神々の物語」。同館学芸員の中尾智路さんより、展覧会の見どころを寄稿いただきました。
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ヒンドゥーの神話や叙事詩には、さまざまな神や魔神、聖仙(リシ)、人間たちが登場します。物語によっては神々の能力・役割も変わってくるので、話の辻褄が合わなくなることもしばしばあります。しかし、そうしたことがヒンドゥー世界に奥行きと複層性を生みだし、ひとつの魅力となっているのかもしれません。
ヒンドゥー教は、そもそも紀元前1500年頃にインドにやってきたアーリア人の信仰・バラモン教から発展したと考えられています。基本になるのは聖典『ヴェーダ』で、そこでは軍神インドラ、炎の神アグニ、創造の神ブラフマーがとくに崇拝されていました。その後、このバラモン教的な世界観の上に、インド各地で信仰されていた土着の神々(シヴァ、ドゥルガーなど)や人気のある英雄たち(クリシュナ、ラーマなど)の物語が取り込まれ、さらにバクティやタントラなどの思想が加わることで、ヒンドゥー教はインドの民族宗教として次第に形を整えていったのでした。
聖典ヴェーダを手にしたブラフマーは、創造神としてバラモン教の時代にはとても人気がありましたが、いまではヒンドゥー教の三大神というにはあまり存在感がありません。実際、今回の展覧会でも、ブラフマーを描いた作品は、数点しか展示されていません。
その一方で、現代においても熱烈な信仰を集めるのが、ヴィシュヌとシヴァという二神と女神たちです。とくに今回紹介するヴィシュヌは、『マハーバーラタ』に登場する英雄クリシュナなど、インドでは誰もが知っている物語を取り込み、絶大な人気を誇っています。
牧童として育てられたクリシュナは、ラーダーをはじめいつも女性たちに囲まれる美男子です。可愛くて、格好よくて、それでいて誰にも負けない怪力の持ち主というヒンドゥー神話のスーパーヒーロー。もちろん頭も賢く、悩めるアルジュナを諭す場面は、聖典『バガヴァッド・ギーター(神の歌)』として、あのマハトマ・ガンジーも心の拠り所にしていたといいます。このクリシュナは紀元前に実在したある部族の指導者でした。死後も神のように崇拝されていたため、「クリシュナはヴィシュヌ神が生まれ変わった化身だった」と説明され、バラモン教に取り込まれたのでした。この化身のことをインドでは「アヴァターラ」と言いますが、ヴィシュヌはなんと10のアヴァターラを持ち、その中に仏教の開祖ブッダも位置付けられました。
クリシュナとならび、ヴィシュヌのアヴァターラのなかで人気が高いのは、コーサラ国の王子ラーマです。愛しのシーター妃を救い出すために、魔神ラーヴァナと対決する王子と仲間たちの英雄譚『ラーマーヤナ』は、インドのみならずアジア各地に伝播しました。とくにハヌマーンという猿の半神は、シーターを助けるために魔神の住むランカー島に潜入したり、薬草の生えた山をまるごと持ってきたりと大活躍し、ラーマとともに人気を集めましたのでした。
インドネシアには9世紀に書かれた『ラーマーヤナ・カカウィン』という叙事詩がありますが、これは東南アジア最古の文学作品と言われています。またタイの『ラーマキエン』やカンボジアの『リアムケー』など、ラーマ王子の物語には枚挙にいとまがありません。さらに言えば、ブッダの前世物語である「ジャータカ」に取り込まれたラーマ王子の物語が、それとは知られず伝承された例もあります。たとえば12世紀に編纂された日本の『宝物集』には、天竺国の大王が大猿の助けをかりて、竜王から后を奪還するという物語が所収されているのです。
そして誰もがよく知る『桃太郎』。この昔話さえも、桃太郎=ラーマ、鬼ヶ島=ランカー島、鬼=ラーヴァナかもしれないというから驚きです。どうですか、皆さん。ヒンドゥー神話の世界。じわじわ混乱してきたでしょうか。
(福岡アジア美術館学芸員・中尾智路)
【ヒンドゥーの神々の物語①】はコチラ
【ヒンドゥーの神々の物語②】はコチラ
【ヒンドゥーの神々の物語④】はコチラ
インド独立75周年・日印国交樹立70周年
ヒンドゥーの神々の物語
会期:2022年1月2日(日)~3月29日(火)
観覧時間:9:30~18:00(金曜・土曜は20:00まで)
※ギャラリー入室は閉室30分前まで
休館日:水曜日
会場:福岡アジア美術館(福岡市博多区下川端町3-1 リバレインセンタービル7階)
観覧料:一般200円、高大生150円、中学生以下無料
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